第1章 *File.1*
「……帰れるなら、帰りたい」
「この世界の、何が嫌い?」
「嫌いなのは……私、自身」
「帰る方法が分からないから?」
それとも。
「……」
「帰りたくはないと、少しでも思ってくれてるから?」
「!」
俯いたまま、ハッとしたように腕の中で思いっ切り首を左右に振った。
それは明らかな肯定。
でも、まだ分からない。
何故、この世界だったのか?
読書好きなキミだ。
続きが気になるのは、他の物語でもよかったはずだろう?
だったら物語の続きではない、内容の伏線か何かに気掛かりなことがあった?
自分が亡くなってまでも、気になる何かが?
「私は……此処にいて、いい?」
「オレが、雪乃には此処にいて欲しい。そう思ってる」
此処にいていい。
きっと、誰かにそう言って欲しかったんだ。
自分から言わせて、気づかなくてごめん。
オレの言葉を信じてもらえるかは、まだ分からないけど。
オレはもう、雪乃への想いを自覚しているから。
近いうちにキミと離れなければいけないことは、分かっているけど。
誰よりもキミを護るために。
あの、組織から。
「可愛いな、雪乃は」
「……彼女でもないのにこんなことしてたら、軽い男だと思われるよ」
「……ふっ」
キミに?
それとも。
雪乃なりの、照れ隠し?
思わず笑ってしまう。
「?」
「大丈夫。雪乃にしかしないよ」
「!」
背後から耳元で囁けば、雪乃の身体がピクリと揺れて、体温が上がった。
まだ、この想いは伝えない。
でも何時か離れてしまう、その時までには必ず。
「此処から出て行かないと、約束してくれる?」
「……うん」
「約束だよ。そろそろおやつにしようか。紅茶を淹れて、待ってるから」
「……」
もう一度、コクリと一つ頷くのを確認してから腕を離すと、ポンと柔らかな髪に触れた。