第18章 *File.18*
「キャーッ!!」
「?!」
朝方の静まり返った寝室から突如響いた悲鳴に、入浴をすませてリビングに向かいかけていたその足で駆け付けるなり、急いで寝室のドアを開いた。
「雪乃っ?!」
寝室の明かりを付けると、布団を跳ね飛ばしたらしい雪乃がベッドで上半身を起こしている。
「…おかえり、なさい」
そう言いながら、蛍光灯の明かりの眩しさに瞬きを繰り返した。
「ただいま。で、一体どうしたんだ?」
「あー、リアルに叫んでたのね。心配かけてゴメン。変な夢を見ただけだから、大丈夫」
「⋯変な、夢?」
「うん。フードを被った見知らぬ女の人に、包丁で脇腹さされたの」
こっちの、と、左の脇腹を押さえる。
また、物騒な夢だな。
「夢でよかったよ」
ふぅと安堵のため息を洩らしながら、雪乃の髪を撫でた。
こんなことが実際にあったら、絶対にオレは正気ではいられない。
「夢の中で仕事帰りに寄り道して、駅に向かってる途中で小雨が降ってきて…」
「うん」
「商店街を通ると遠回りになるから、道を逸れて薄暗くて人気の無い住宅街を早足で歩きながら、変な人出そうって考えて直ぐ、だったかな?でもねー」
「でも?」
ベッドの端に腰を掛けて、夢の続きを促す。
「何でか知らないけど、枕を抱えてたの。左の脇腹に」
「⋯枕?」
「うん。正にこれ」
と、自分の後ろからさっきまで使用していた軟らかな羽毛枕を引っ張って来て、指さした。
「⋯何故?」
「さあ?でもこの枕のお陰で服だけ切られて、刺されずに済んだの」
「⋯⋯ふっ。ゴメン」
悲鳴のわりに落ち着いていたのは、そのせいか。
夢とは言え、腹部を刺されていたら、痛みや出血で、さすがに動揺せずにはいられないだろう。
だけど⋯。
謝罪と同時にオレは堪え切れずに、吹き出して大笑いした。
「⋯笑わないでよ」
不貞腐れた中に、恥ずかしさも混じったような表情。
「仕事帰りなのに、枕って⋯」
「しかも袋にも入れずに、このまんま抱えてた」
「くっくっく」
夢の中で雪乃は、一体どんな職業に就いていたんだろうな?