第17章 *File.17*(R18)
「雪乃」
「んー?」
「これ、どうしようか?」
「あ!」
お茶の用意をしていた雪乃が振り返ったまま、その場で固まった。
「何時の日か、オレに渡すつもりで貯めてた?」
「うん」
淹れたばかりのミルクティーをローテーブルに置くと、こくりと頷いた。
無くさないようにと、透明のジッパーの袋に入れたままの、通帳とカードと印鑑。
オレが記憶を失くした時に、テーブルの上に一緒に置かれていたメモも同封してある。
「理由は…」
「借りていた分と、感謝の気持ちと生活費。貴方に逢えなかった時間に出来ることを考えたら、私にはこれぐらいしか思いつかなくて」
「キミを無理矢理此処に留めてしまったのは、オレの方なのに」
出逢って直ぐに、警察に連れて行って欲しいとまで言っていたのに、オレにはそれが出来なかった。
出逢ったばかりなのに何故か、
キミの存在を失いたくなくて。
キミを傍で見ていたくて。
キミの全てを知りたくて。
キミを他の誰にも渡したくはなくて。
「例えそうだとしても、突然現れた、行く当てもない無一文のただの怪しい女を追い出すことなく、とても親切に面倒を見てくれたのは、景光だけだよ」
「…雪乃の気持ちは有り難くもらうよ」
「出来れば…通帳だけ、返して欲しい」
「通帳だけ?」
それはこの中のお金を、自分では引き出さないってことだ。
「今まで貯めた分も景光のものだから、景光が自由にしてくれていい。でも、私の気持ちはまだ収まらない」
「…まだ?」
「うん」
紅茶を一口飲むと、ハッキリと頷く。
ある日突然だったとはいえ、たった数ヶ月間の生活費なんて、些細なものなのに。あの時、頭を下げられてまで貸したお金だって、ホンの数万円。
何よりもう十分過ぎるほど、キミからの感謝の意は伝わっているのに。
キミがオレの傍で笑ってる。
本当はそれだけで、オレは満たされているのに。
きっとそう伝えたところで、雪乃は納得しない。
「本当に、筋金入りの頑固者だな」
父さんが言ってた通りだ。