第16章 *File.16*【File.10 番外編】(R18)*
「辛い夢を見たの?」
珍しく先に起きていた雪乃が、オレの目覚めを待っていてくれたらしい。
「…おはよ」
「おはよ。大丈夫?」
こんなことは初めてだから、少し戸惑いを隠せない様子で心配そうに伸びて来た指先が、涙で濡れた目元をそっと拭ってくれた。
「とても幸せな夢を見たんだ」
「…そっか。幸せならよかった」
雪乃は安心したように、優しく笑う。
「父さんと母さんに会えたよ」
二人を突然亡くした時はどれだけこの世に戻って来て欲しいと願い、どれだけ耐え切れない程の深い哀しみに日々を明け暮れたか。
それが原因で失声症と記憶障害になり、仕方ないとは言え、兄さんとも遠く離れて暮らすことにもなった。
「お話は出来た?」
「少しだけど」
「景光が幸せなら、私も幸せ」
お互い裸のままなのに、何の躊躇いもなしに頭ごとふわりと包み込まれる。
それはオレをあやすように、護るように、まるで母親かのように。
「母さんが、雪乃に宜しくって言ってたよ」
「……」
「雪乃?」
「私をこの世界に呼んだのは、誰?もしあの時、景光に拒絶されてたら、私は一体どうなってたの?」
「恐らく、オレの性格を一番把握してる、両親だったのかも」
「何故?」
「長い間、女っ気がないのを心配して?」
「なにそれー。景光はモテるんだから、そんな心配全然要らないじゃん」
「もしそうだとしても、それとこれとは別問題」
「そうかなー?もし景光がいいなって思った子がいて告白なんかしちゃった日には、公安部でとんでもない騒ぎになっちゃうよ」
「…もしかしなくても、ずっとそんな目で見てた?」
「もちろん」
「……」
さも当たり前かのようにドヤ顔で頷かれたら、反応に困る。
「お兄さんは、結婚してるの?」
「そんな話は聞いてない…なるほど」
「なるほど?」
「母さんが兄さんに宜しくと。それは雪乃のことをきちんと報告しなさい。そういう意味もあったんだ」
「……」
今度は雪乃が言葉を無くした。
余計なことを言ってしまった。と、言わんばかりに視線を逸らす。