第16章 *File.16*【File.10 番外編】(R18)*
「ホントは…」
「…ホントは?」
「今すぐギュッって、景光に抱きつきたいと思っただけ」
「!」
参った、降参だ。
どれだけ可愛いんだよ!
だから、今すぐギュッと抱き締めたいのは、オレの方だって!
「家に帰るまで、ガマンします」
「オレも」
「へっ?」
頬の赤みが薄まりながら、目をパチクリさせる。
「雪乃と同じ気持ちだから」
「…ありがと」
「それはオレのセリフだよ」
正面から、オレの気持ちを受け止めてくれて。
今の素直な感情を伝えてくれて。
出逢ったばかりの頃を思い出したら、こんな日が来るなんて思ってもいなかったよ。
オレはキミと出逢ったその日から、何時かこんな日が来ることを望んでいたけど。
「?」
「これ以上言葉にしたら止められなくなるから、帰ったら、覚悟してなよ」
「正々堂々と受けて立ちます」
「逞しいな」
「でしょ?」
再び歩き出しながら、視線を合わせると自然と笑顔になる。
「景光の傍にいたらドキドキしっ放しで、心臓がいくつあっても足りないよ」
「オレも困るよ」
「…困る?」
「何時何処にいても、雪乃が可愛すぎて」
本当はずっと家の中に閉じ込めて、時間が許す限り、雪乃を愛して抱き尽くしたいと思って止まない。
でもこれはダメなやつだ。
一歩間違えれば、狂気的な、病的な、変態の域に入ってしまう。
勿論、雪乃を愛しているが故に、だけど。
「私にとって景光は、誰よりも素敵でカッコイイですよ?」
「有難う」
「でもこんなの傍(はた)で聞いてたら、単なるノロケ話にしかならないね」
「確かに」
並んで歩きながら、同時にクスクスと笑い合う。
「こんな幸せな時間が…」
「ずっと続きますように」
「うん!」
満面の笑みで大きく頷く雪乃を見つめると、素直に心が満たされて幸せな気持ちになった。
望月雪乃との出逢いに、望月雪乃をこの世界へと導いてくれた神様に、心の底から感謝を。
それからもう二度と、雪乃を哀しませること、辛い思いをさせることがないようにと、心に誓った。