第15章 *File.15*(R18)
「もうすぐクリスマスかー」
「ん?」
「一年が経つの早いな、と」
「歳のせいですか?」
「!!」
カウンター越しに睨まれた。
「一つしか変わんないでしょ!」
「そうでしたか?」
「フンだ。デリカシーの無い男は嫌われるわよ!」
プイと顔を背けた雪乃が態度が歳不相応で、笑みが洩れる。
「今日は奢りますから、機嫌を直して下さい」
「マジで?やった!」
「……現金だな」
この態度の変わり様。
「ケーキ食べたい」
「それは今?それともクリスマス?」
「どっちも!」
「はいはい」
外にいる時は、一見普段通りの雪乃。
でもその水面下では、もう期待よりも諦めの気持ちが膨らみ始めた。
景光が雪乃の記憶を無くして、もうすぐ一ヶ月なる。
たまに電話はするが、お互いにその話はしないから、アイツがどの程度思い出しているのかはサッパリ検討も付かない。
最悪、雪乃に関しての全ての記憶を失ったまま。
「そろそろ…」
「?」
「引越しも考えないと」
「まだいいですよ。年が明けてからで十分です」
「でも…」
「大丈夫。何の問題もありませんから」
ケーキをのせたお皿をテーブルに置いて、言い聞かせる。
寧ろ、あそこに住んでくれている方がこちらとしてもいざと言う時に動き易いし、セキュリティの面でも安心だ。
「私はゼロを頼ってばかりなのに」
「俺がそれを望んでいる。だから、雪乃は遠慮せずにあまえてくれればいい」
これは俺の本音だと、聡い雪乃には十分伝わっただろう。
困った表情から驚いた表情に変わったのが、何よりの証拠。
「バカ。何処まで男前なの」
「お褒めに預かり光栄です」
白い頬が紅く染まったのを眺めつつ、雪乃の方へと寄せた上半身を戻して、にこやかにそう答えた。