第15章 *File.15*(R18)
『一応片付いたから、向こうの家に戻ってもいいぞ。但し、雪乃の私物、その他はそのままにしてある』
彼女が何時でも此処へ戻って来れるように、か。
「これは?」
テーブルの真ん中にポツンと置かれた、彼女名義の通帳、キャッシュカード、印鑑。
「心からの感謝を込めて?」
メモに丁寧な字で書かれた、たった一言のメッセージと名前。
失礼だとは思いながら、通帳を開いて目を通す。
一番上の日付はもう四年ほど前。
それから毎月一度も欠かすことなく一定の金額が入金されていて、四年分でかなりの金額になっている。
毎月の給与の相場を考えれば、生活は大変じゃないのか?
「一体何の感謝?」
此処で一緒に生活をしている、から?
それに…。
少なくとも、これ以上前に彼女と知り合っていたってことになる。
これは此処には置いてはおけないから、寝室にあるパソコンデスクの引き出しに入れておく。
キッチン周りやお風呂には、確かに二人で生活をしていた、そのままで。
食器棚にはお揃いで色違いの可愛らしいお茶碗やお皿、マグカップが並んでいて、そこには二人の日常が明らかに垣間見えるのに。
彼女の記憶はないのに、何故か家の中の記憶に何の違和感もない。
二人で買い物に行って、一緒に選んで買ったのだろうか?
何時の日か、彼女を愛していたことを思い出すのだろうか?
それとも、このまま彼女とは……。
だけど、オレ自身はキミのことを思い出したいと思っているよ?
雪乃……。
「景光」
オレの名前を呼ぶ、柔らかくて優しい声にハッとして目が覚めた。
そのまま、身体を跳ね上げて飛び起きる。
勿論、この場に彼女の姿はないけど、キミの声を初めて聞いたよ。
キミはオレのことを『ヒロミツ』ではなく、『ヒロ』と呼んでくれてるんだな。
たったそれだけのことで、心に大きく空いている穴が温かいもので埋まっていく幸せな気持ちになった。
同時にオレの中にある、キミへの想いは本物だと確信する。
「一日でも早く、雪乃、キミに逢いたい」
ただそう深く願いながら、再び眠りについた。