第15章 *File.15*(R18)
「それでも朝はやって来る、よね」
昨夜、何事もなかったかのように、時間だけは早まることも無ければ遅まることも無く。
行き場の無いこの感情だけが、ポツンとこの心に置き去りにされたまま。
「まあな。現実は厳しいよ」
「ゼロに言われると、重いわ」
「褒めてないだろ?」
「感謝の意はちょーありますけど」
「ったく、二人揃って、トラブルメーカー過ぎる」
「参っちゃうよね」
「お前が言うセリフじゃない」
「朝から、現実もゼロも手厳しい」
「仕事に、行けるのか?」
「寧ろ、行かないと。このまま此処にいたら、堕落の人生しか道がないわ」
「当面は毎日来るよ」
「ゼロの方こそ、仕事が忙しいのに…」
「その心配は全く要らない。昔に比べたら随分落ち着いて、楽になったからな」
「そっか」
「だから、これ以上は一人で泣くな」
「優しくされたら、我慢してるものも出来なくなる」
「悪かった」
「……ゼロ?」
朝食を済ませたゼロは椅子から立ち上がると、背後から椅子ごと私を抱き締めた。
「景光の代わりにはなれないけど、今は誰も傍にいないよりはマシだろ」
「ゼロは自分を過小評価し過ぎです」
どれだけイイ男なの!
降谷零は、私にとって、景光の次に大切なヒトなのよ?
「有難う。と、言った方がいいのか?」
「そうよ。意外だった?」
「いや…」
「なぁんだ。照れてるだけかー」
斜め後ろを振り返れば、薄らと赤く頬を染めたまま、スイッと視線を逸らした。
「煩い」
朝からイケメンの珍しい表情が見れて、得した気分だ。
「まだ時間あるから、洗い物済ませとくね」
「…雪乃」
「うん?」
「……何でもない」
何処か切なげな声音で名前を呼ばれた後、もう一度だけギュッと抱き締められてから、ゆっくりと腕が解かれた。
私が何も気付かないフリをしていることに、ゼロは気付いてる。
ごめんなさい。
心の中で謝罪をしてから、普段通りの私達に戻った。