第14章 *File.14*
「無理を言って、頼ってばかりで、すまない。君にも守りたい人達がいるのに」
「それは否定は出来ませんが、俺にとっても雪乃さんは大切な人ですから。俺の方こそ、宜しくお願いします」
俺は雪乃さんを実の姉みたいに思っているし、彼女が時折見せる精神の危うさは放ってはおけないと思ってはいた。
ふと表情を緩めた諸伏さんは、俺の頭をポンと軽く撫でた。
コナンの姿の時に、松田刑事に同じことをされたのを思い出す。
それはまるで兄が弟にするような優しい仕草で、一人っ子の俺にはそれがとても新鮮で恥ずかしくもあったけど、心は素直に喜びを感じた。
「あ、そうだ」
「?」
家の前に到着してドアを開き車外に出たところで思い出したから、低い車高の屋根に手を付いて、身体を屈めた。
「諸伏さんが高校生の頃の写真って、ありますか?」
「ある、とは思うけど」
突拍子もない問いに、運転席で諸伏さんが首を傾げる。
「雪乃さんが見たいって言ってましたよ」
「…雪乃が?」
「はい」
簡単にあの時の状況を話したら、
「くっ、くくく」
諸伏さんには手に取るように、雪乃さんの様子が伝わったのだろう。
ハンドルから手を放し、声を抑えるように口許を片手で覆うと、吹き出して笑った。
「……」
だけど、諸伏さんのその表情が面白いと言う感情のものではなく、愛情を含んだとても柔らかいものだったから、言葉を失った。
この人は…。
俺が考えている、俺の想像を遥かに超えた想いで、雪乃さんを愛している。
まるで底が見えない海のように、雪乃さんを丸ごと深い愛情と優しさで包み込んで。
これから先、何があっても決して揺らぐことの無い、心からの溢れんばかりの無償の愛を垣間見た気がした。
「思い出してくれて有難う。今度用意しておくよ」
「是非。今日は有難うございました。ではまた」
「こちらこそ、有難う。また何時でも遊びに来るといい」
「はい」
暗い住宅街を颯爽と走り抜けるスポーツカーを見送りながら、ふと思う。
降谷さんが動なら、諸伏さんは静。
幼馴染の二人は、二人揃えば、無敵な存在だ。
ただ、雪乃さんを巡っての恋敵、でもあるけどな。