第1章 *File.1*
「あれから、どうだ?」
「二人でいる時も、警戒していないフリをしてるよ」
それでも時々は、彼女の素を見ることは出来るようになったとは思う。
「で、彼女に惚れた。と」
「……否定は出来ない」
「ミイラ取りがミイラになった。に似てるな」
「……すまない」
「別に謝ることじゃないだろ。出逢い方はどうであれ、お前は男、彼女は女。ましてや、年頃の男女が同居中だ」
やれやれ、と、ため息を一つ洩らされた。
「きっと……」
「お前に殺される覚悟はしている?」
「ああ。オレが拳銃を向けてしまった、あの瞬間から」
「景光に落ち度も罪もない。それは彼女も言ってただろ?もし俺が景光と同じ状況に陥ったとしたら間違いなく、俺もお前と全く同じことをした」
「そう、だな」
でもお前はあの瞬間、あの場所にいなかった。
だから、簡単にそう言い切れるんだ。
「少なくとも……」
「?」
「俺の目から見て、お前は彼女に嫌われてはいないよ」
「だといいけど」
「俺は松田同様、随分と嫌われているようだが」
「……」
本気で言ってるのか?
自分のことには鈍いのか?
天下無敵のお前が?
「……何だ?」
「何でもない」
それこそ、有り得ないだろう?
彼女は、ゼロのことも松田のことも嫌いなフリをしているだけだ。
誰よりも、お前達のことを思って考えているからこそ。
オレ以外の誰にも関わらないようにする、ため。
そう、万が一。
に備えて。
何があっても、自分の心に後悔も未練も残さないように。
何時どんな状況で自分がいなくなっても、誰の心にも自分のことが記憶に残らないように。
本当はとても優しくて聡明で可愛くて、そして哀しい女性だ。
例えゼロが相手でも、これ以上は何も教えてはあげないよ。
望月雪乃、のことはね。