第14章 *File.14*
「雪乃さん」
「へっ?」
この声って…。
「長い間ご無沙汰して、申し訳ございませんでした」
「あらまあ~」
振り返れば、奴がいた。
江戸川コナン、ではなく、あの工藤新一が、目の前に。
待ち合わせ時間の五分前、夕暮れ時の米花駅前。
彼、コナン君から退院して私生活が落ち着いたと連絡があったのが、先週。
数ヶ月前に約束していた、私の話をする日が、週末の今日に決まった。
「眼ン玉が飛び出て来て今にも落ちそう、ですけど」
「…敬語はいいから、気楽に話して」
「じゃ、遠慮なく」
「道理で音沙汰がなかったわけ、ね?」
「灰原と博士のお陰で、何とかこの通り」
「そっかー、よかったね。やっと毛利さんとイチャコラ出来るじゃん」
「イチャコラって…」
視線を逸らして、赤い顔。
どれだけピュアな子なの!
でも、たまーにコナン君の姿のまま、鼻の下伸ばしてたことはあったっけ?
「照れちゃて可愛い~。若いっていいねー!」
私もこの時代に、景光と出逢いたかった!
「雪乃さん?」
「想像したら、鼻血出そう」
思わず鼻を押さえた私を見て、彼は首を傾げる。
「諸伏さんの、高校時代?」
「写真あるかな?ゼロと陣平のもあったら見たい」
「ぷっ!」
どうやらワクワク感全開なのが彼には伝わったらしく、吹き出して笑われた。
確か、高明さんの回想シーンで、景光とゼロは学ラン着てた!
みっ、見たい!!
「工藤君?」
「新一でいいって。雪乃さんって、やっぱ面白え」
お腹抱えて笑ってるし!
「そう?とにかく!楽しそうなトコ悪いけど、もう行きますよ?」
「そういや、出迎えは諸伏さんじゃねえんだな」
「私は仕事帰りだし、景光は夕飯作ってくれてるよ」
「えっ?」
「ゼロの料理のお師匠は、景光なのよ」
「マジっ?」
「うん。警察学校に行くまで、ゼロは料理に興味無し。景光は子供の頃からしてたみたいだから、料理は得意なの。だから夕食は期待してて」
「因みに、雪乃さんは?」
「私は簡単な物しか作れないよ。作ることにはあまり興味はないなー。作れたらいいな、とは思うけどね。作るより、食べる方が好き」
「もしかしなくても、私が彼の胃袋掴んだ。んじゃなくて、私は彼に胃袋を掴まれた、ってやつ?」