第14章 *File.14*
「ん?」
仕事中、不意に名を呼ばれた気がして、キョロキョロと辺りを見回す。
でも、声の主は此処にはいない。
「どうかした?」
「誰かに呼ばれた気がして」
隣のレジの同僚も、首を傾げながら辺りを見回した。
「心当たりは?」
「……ない、かな?」
それはウソ。
あの優しい声は、景光だ。
聞き間違えるはずが無い。
「重症だわ」
今朝、二人で朝食を食べて来たはずなのに、もう逢いたいだなんて。
きっと、依存し過ぎているのは私。
この世から、景光を喪ったら……。
もう私は生きてはいけないから、静かに景光の後を追う。
物語の中の、ナタリーさんのように。
「雪乃?」
「何でもない」
笑って誤魔化しながら、頭を振った。
私がこんなことを考えてるなんて景光が知ったら、絶対怒るだろうな。
でも景光のことだから、私のこんな気持ちですら安易に予想をしてるのかもしれない。
今はまだ言葉にしないだけ、で。
ねえ、景光?