第14章 *File.14*
「いよいよ結婚か?」
「誰が、ですか?」
「酒井の奴、突然辞めたじゃん。お前と結婚するって、専らのウワサだぜ?」
「ハア」
予想はしてたよ、タイミング的に。
「えっ?違うのか?!」
同僚のこの驚きようで、色々簡単に事のウワサを把握出来た自分が辛い。
「違います」
「おや?君は結婚するんじゃなかったか?」
「……」
出たよ。
階段の昇降口から、一切の気配もなく姿を現したのは。
「く、黒田管理官!」
神出鬼没とは、この人の為にある言葉だろう?
予想外の登場人物に、同僚は急に畏まって頭を下げた。
「彼女は元気にしてるか?」
「お陰様で」
「また、お会いしたいものだ」
「彼女と会って、一体どんな話を?」
「色々と」
「……」
もう、ため息しか出ない。
「楽しみにしてるよ」
「……」
咄嗟に出た二つの答えに、どちらかと視線で問い掛ける。
再会か、はたまた結婚式か?
「どちらもだ」
「…そう、ですか」
ニヤリと口角を上げてから、来た時と同じく颯爽と去って行った。
一応助けられた、のだろうか?
だが、結婚式に彼を呼ぶのは、もう決定したも同じ。
ハナからオレ達に拒否権なんかあるはずもないことは、重々承知はしていたが。
「お前、怖くねえのか?」
「……別に怖くはありません」
怖い以前にからかわれてばかりいて、腹が立つ感情の方が勝る。
「ってことは、マジで彼女いたのかよ!」
「ええ。まあ」
ここまで来ると、否定は出来ない。
「それも黒田管理官とも知り合いっ?」
「諸事情がありまして」
気持ちは悪いが、目をキラキラさせて高校生か?
勿論、その諸事情を話す気はサラサラない。
「何時の間に、何処で知り合ったんだよ?」
分かるよ。
警察官に、公安部に配属されたが最後。
本人の希望や意思を無視して、一気に恋愛と言うモノから遠ざかるしかない人間が殆どだ。
「秘密です」
雪乃の秘密はこれ以上、誰も何も知らなくていい。
墓の下までこの秘密を持って行くと、みんな決めている。
彼女の正体を知って確信を得た、あの日から。
だから安心して、雪乃。