第13章 *File.13*
「……?」
警視庁の駐車場に停めた車へと戻る途中、突然立ち止まった雪乃を振り返ると、何故か両手で顔を被って、しゃがみこんでいた。
「雪乃?」
「お、思い出したあ」
「何を?」
悪いことではなさそう、だけど。
「『最初で最後』」
「……」
オレとしては、今の今まで遠い記憶の彼方にあったと言う事実が、不思議で仕方ない。
「うっ」
「?」
「何か色々思い出して来た」
「……」
他にも?
「あの後、のこと。とか」
「再現してみせようか?」
傍にしゃがんで顔を覗き込めば、
「ヤダ!」
「どうして?」
「色々恥ずかし過ぎるぅ。もう心臓持たない」
プシューと湯気が立ちそうなぐらい頬を赤くして、首を思いっきり振る。
「ついさっきまでの逞しさは、一体何処に行ったのやら」
「ゔ~っ」
「とりあえず、車に戻ろうか」
「……うん」
笑いながらポンポンと髪を撫でて、立ち上がるのを支える。
「でもどうして急に、そのセリフが?」
「…管理官に会うのは、今日が最初で最後でいいと思ったから」
「気持ちはよーく分かるけど、普通に『はい』って返事してたよね?」
「…社交辞令デス」
あえて、オレから視線を逸らした。
「演技が上手いな」
「あの人には通用しないよ、多分」
「かもしれない」
「…結婚式に、呼ぶの?」
「それは……直前まで保留にさせて」
雪乃の意向もあって、身内だけで集まり、派手にするつもりはない、が。
「…はい」
車内で顔を見合わせて、苦笑いした。
「不味いな」
サイドミラー越しにこちらに向かって来る見慣れた男が映り込み、エンジンを掛けたまま、ギアから手を放した。
「何が?」
雪乃がそう訊ねたのと同時に、運転席側の窓ガラスを外からノックされる。
「このタイミングで来る?」
「松田が松田故に仕方ない」
「褒めてないでしょ?」
「さてね」
「また、何かあったのか?」
窓ガラスが全開になると、助手席に座る雪乃の姿を確認するなり、そう訊ねた。
また?
そう言いたくなる気持ちは、嫌と言う程分かるが。