第13章 *File.13*
「久しぶりに会った第一声が、それ?」
「そりゃ、童顔隠し用の髭はねえし?此処にいるのがお前だけなら聞かねえけどよ」
「童顔隠し用って……とにかく話すと長くなるから、また今度」
「厄介事、か?」
「…色々と、深い事情がありまして」
雪乃が視線を合わさずに返事をすると、何かを感じ取った松田は形の良い眉を片方跳ね上げた。
「解決はしたのか?」
「……半分は?」
「へぇ。じゃあ、また近いうちにお前ん家に寄るわ」
「了解」
松田も仕事中だし、そこで話は一旦終わらせた。
「この際だから、聞いてもいい?」
「うん?」
「玄関に出迎えてくれた時、何度か不機嫌な顔をしたことがあったよね?」
「……」
一瞬だけチラッとオレの顔を見たかと思ったら、途端に顰めっ面になってプイと顔を背けると、車の窓の向こうを見てしまった。
「?」
この件とは関係なかった、のか?
だが、この様子だと怒っている。若しくは拗ねている。か、
「嫉妬してる?」
「!!」
「当たった」
「!」
グルンと勢い良くこちらを向いた顔は、また元の位置に戻ってしまう。
「……」
帰って来て、直ぐに反応する?
表情、態度、服装、髪型……。
「匂い、か」
「かなーりマウントありました。けど?」
ようやく気付いてくれたの?と、言わんばかりの表情。
「だから、あの時……」
病院で、あんなことを聞いたのか。
「彼女が私の存在に何時気付いたのかは分からないけど、ね。女の直感ほど、よく当たってイヤなモノはないんです」
「女の直感、ね」
オレには到底理解出来ない。いや、一生理解出来ないこと、か。
「景光が悪くないのは、よーく存じ上げてますので……その、ごめんなさい」
丁寧にぺこりと頭を下げる。
「いいよ、謝らなくて。今理由を知ることが出来たから、スッキリしたし」
「……し?」
「嫉妬してる雪乃も可愛かったから」
「バカっ!」
「ふふっ」
伸ばした左手で肩を引き寄せると、驚いてこちらを向いた雪乃にキスをする。