第13章 *File.13*
「管理官、ご冗談も程々に。私を胃潰瘍で入院させるおつもりですか?」
「……」
私の所為で胃潰瘍?
どういう意味?
「これ以上、彼女を他の男に晒すのが嫌か」
「当たり前です」
「……」
そっち?
強面の隻眼で、意味深なニヤニヤした目で見ないで下さい!
「ゼロの降谷に捜一の松田。そして公安の諸伏。三人もの優秀な警察官を夢中にさせるとは、望月さんは余程魅力的でイイ女らしい」
「……」
何処をどうしたら、そこまでプライベートなことを知ることが出来るの??
この人、色んな意味で恐いわ!
関わるのは、今日が最初で最後にしたい。
最初で最後?
ん?何処かで言われたセリフ?
はて、何時何処で??
「揶揄うのもいい加減にして下さい」
「否定出来ないのが辛いな?諸伏?」
「もうお好きなように解釈して下さって結構です」
「……」
仮にも上司の目の前で深々とため息まで付くと、不貞腐れたように、何かちょー諦めモード入ってる。
でもこれはこれで中々見れない景光の表情で、貴重かもしれない。
「では、そうさせてもらう。それはそうと、示談交渉はどうする?」
「「示談?」」
いやいや、こっちが本題でしょう?
「これだ」
高級感溢れる綺麗な机の引き出しから、ピラリと一枚の紙切れを出して来た。
「失礼します」
元の位置に戻ると、景光が覗き込んで来る。
「300、万?」
思わず、目をパチクリさせてしまった。
「示談金の心配は要らんよ。ああ見えて、所謂良家のお嬢だからな。今まで公安にいたのが不思議なぐらいだ」
「……」
そう言われてみれば、お嬢的な雰囲気はプンプンさせていた、かな?
所作に品があったから。
あれは大人になってからではなく、幼い頃から身に付けたモノだ。
良家の立派なお嬢様になるために、厳しくもあっただろうけど、ご家族には大切に育てられたはずだ。
ちょー庶民の私には想像も付かない世界、ですが。
「少し、考えさせて下さい」
「ああ、構わんよ。返事は諸伏にしてくれればいい」
「承知いたしました」
「話は以上だ」
「有難うございました」
「また、お会いしよう」
「はい」
ホントは「いいえ」と言いたいところだけど、とりあえずは一つ頷いて、踵を返した。
が、再び声を掛けられたのは、まるで狙っていたかのように景光がドアノブに触れた瞬間だった。
