第12章 *File.12*(R18)
「ゼロ?」
キョトンとして首を傾げる。
可愛い過ぎだろ。
観覧車の中で、松田が感情を抑えきれずにキスしたのも頷ける。
そういう意味では、俺は雪乃に信用されているらしい。
喜ぶべきか、哀しむべきか?
「今夜はお前の気がすむまで、付き合うよ」
「!」
濡れた瞳を指先で拭いて柔らかな茶色の髪に一つキスを落とすと、再び車のエンジンをかけた。
「やれやれ」
あれから夜の高速を走り続けて、更に一時間半。
助手席に座るお姫様が、ようやく眠ってくれた。
にしても、だ。
さすがに俺も、雪乃のあのセリフは堪えた。
もう二度と雪乃の口から聞きたくはないし、景光に言えるわけがない。
雪乃が考えている意味とは違った意味で、君には本当に振り回されるよ。
俺の心、が。
景光には言えないことを、俺には言える。
嬉しくも辛くもあり思いは複雑だが、最初に出会った二人がお互いしか愛せないことは直ぐに理解出来たから、深入りはしないつもりだった、のに。
同じ時間を過ごすうちに、俺の予想を遥かに超えた場所、俺の心の内側まで、何の抵抗もなしにすんなりと雪乃は入り込んで来た。
「一体どうしてくれるんだ」
直ぐ傍で呑気にすぅすぅと気持ち良さそうに眠る君がとても愛しい反面、安心しきったその無防備さ加減にとても腹が立つよ。
今心の中で激しく暴れて溢れるこの感情の全てをいっそ雪乃、今直ぐに君にぶつけてしまいたいぐらいには。
雪乃はきっと…。
俺の本音を伝えれば、受け入れてくれる。
例え、景光に対してどれだけの罪悪感を抱え込んだとしても、それが原因で景光と別れることになったとしても。
雪乃は人より何倍も優しくて情が深いから、俺の気持ちに素知らぬフリなんか出来るわけがない。
だからこそ。