第12章 *File.12*(R18)
「モテる男は辛いね」
「雪乃が、だろう?」
今現在辛いのは景光じゃない。
雪乃、君自身だ。
「まあねー。これ以上望んだら、バチ当たるよ」
「言うべき相手が違う」
「だって、潜入捜査中でしばらく帰って来ない」
「それはやられて一番イヤなやつだ」
「ゼロと、浮気?」
「心にも無いことを言うな、バカ」
「はーい」
視線はずっと高速から見える夜景を映したまま、表情は普段と何一つ変わりない。
が、今の雪乃には、景光どころか俺の声にまで反応して泣いた、あの時にも似た危うさがあるのは拭い切れない。
景光、お前。
呑気に仕事してる場合じゃないぞ?
「どうしたいんだ?」
「それが分かればいいんだけど。なぁんかね、一人で色々たくさん考え過ぎて疲れた」
景光と雪乃とのことを知ってるのは俺達と工藤君、怪盗キッドだけだ。
後は裏の管理官。
「別れ、たいのか?」
今更?
「それが出来ればなって思ったことはあるよ。でも結局、行き着くトコは一つしかなくて困ってる」
だが、それさえも自分のためじゃなく、景光のために、だろう?
景光が公安の潜入捜査官として生きて行く上で、自分の存在が邪魔になるなら傍にいない方がいい。と言う思いで。
「吐き出すか?全部」
「どうやって?」
「さあ、な」
「こわっ」
チラリと視線を向ければ、思っていたよりは明るい表情があってホッとする。
雪乃はきっと。
不満や愚痴を吐き出したところで結果、仕事上のことだからどうしようもないと、これからもこんなことが何度もあるのだと自分自身を無理矢理納得させて、何より景光を傷つけたくはない。と言う思いがある。
景光に大切にされて、愛されてる自覚もある。
それでも周囲に気づかれないように、自分の気持ちには何時も限界まで蓋に蓋を重ねて我慢して。
なのに、たった一つしかないその生命を懸けて、何事もないかのように大切な人を助け、一番大切なはずのそれは、何よりも後回し。
「ふっ」
「?」
「なんでもない」
なあ、景光。
こんなにも愛されるべき女に、俺は出逢ったことがないよ。
運命の神様がいるなら、本当にとんでもない女性を俺達の元へ送りつけてくれたと言う文句と、やはり望月雪乃と言う一人の女性に出逢わせてくれて有難うございます。と、感謝を言いたいよ。