第10章 *File.10*(R18)
「雪乃」
名前を呼べば薄らと瞳を開いた。
身体は素直に反応して気持ちいいのと、こんな場所で性急に抱いてることに抗議をしたい、そんな目と直ぐ傍で視線が絡む。
「一度イかせるよ」
「!」
大きく瞳を開いたと同時に再び唇を塞いで深く口付けると、激しい指の動きを再開した。
「っん……ンっ、あッ、ン…んーッ!」
雪乃は間もなく身体をビクリと何度か震わせて指をキツく締め付けると、クタリと果ててしまった。
「このまま、お風呂に行く」
「っはぁ…はぁ……ま、て」
「……」
「ひ、景光っ!」
「なに?」
「待って、って、言ってる…のにっ!」
「今更止まれないよ」
「そうじゃ、ない!」
「我慢しないって言っただろう?」
「だからっ!」
「だから、なに?」
後ろ手に脱衣所のカギを閉めて、雪乃を下ろす。
不思議なぐらい、感情がないのを自覚する。
まるで別人のオレが、雪乃と話してるみたいだ。
「さっきから、なんでちゃんと目を見てくれないのっ?私だって、景光に愛されたいのに!私だって、景光を愛したいのに!今の景光はキライっ!」
「!!」
出逢ってから、初めて言われたな。
キミの口から、キライだなんてコトバ。
「帰るから、離してっ!」
「病院に、行くのか?」
まだゼロがいる、だろう?
「行くわけないでしょ!自分の家に帰るっ!もう、此処には来な…っ!」
離しかけた腕を掴み直して右手で顎を固定すると、唇を塞いだ。
結局のところ、オレが勝手に一人でゼロに猛烈に嫉妬してるだけ。
行き場のないこの醜い感情を、雪乃にぶつけているだけだ。
「もう、止める?」
「…何を?」
わざわざ訊ねなくても、言葉の続きは嫌でも分かった。
「私の、恋人」
「…雪乃は、やめたい?」
「聞いてるのは、私でしょっ!」
「今直ぐに抱き尽くしたいとは思ってるよ」
「…シたいなら、他の人でもいいんじゃないの?景光はモテるんだから、相手は選り取りみどり」
「……」
「私じゃなくても、いいでしょ?」
「……」
「私がいなくなれば、景光は元の生活に戻れる。だったら、私が貴方の傍からいなくなる」