第10章 *File.10*(R18)
「明日、退院だって?」
「ああ。一足お先にね」
「一ヶ月の休暇か」
「身体も鈍ったし、鍛え直すよ」
「無理はするなよ。怪我を治すのが最優先だ」
「それはゼロも同じだろ?」
「まあな。俺も何時退院出来るのやら」
そう言いながら肩を竦めたゼロと、そんな話をしたのが昨夜。
「参ったな」
あれから雪乃に連絡はしてみるものの、やっぱり返信や音沙汰は一切ない。
だからオレも意地になって、今日が退院日だとは伝えていないまま。
初めての喧嘩みたいになってしまったけど、これは組織にいて連絡が取れなかった状態よりも、堪えるよ。
やっと逢えるようになったのに逢うことも出来ない上に、連絡さえも取れなくなるなんてね。
ずっと消せずに、今では大事な御守り代わりになっている、オレが死ぬはずだった日に死なずにすんだ後に届いた、雪乃からの一通のメールを開く。
『絶対に油断しないで』
返事は来ないと分かった上で、後にも先にもこの一言だけをくれた。
これを送信した時、一体どんな気持ちだった?
裏を返せば、『絶対に帰って来て』だ。
この一言に、きっとオレが想像してる以上の想いが込められていた。
キミは何時だってそうだ。
後になってから、オレは雪乃の普段と変わらない何気ない言動に込められた深い意味と想いを知ることになる。
出逢ったあの日から、疑う余地もないぐらい雪乃に愛されているのに、未だにオレは直ぐにキミの真実まで辿り着けないんだ。
あの時の微妙な状況を察したコナン君からは謝罪されたけど、あの会話はきっかけになっただけ。
遅かれ早かれ、訪れていた。
ゼロのことで、こういう日が来ることは。
とは言え、これ以上、意地の張り合いはしたくないし、折角の長い療養休暇を無駄にするつもりもないよ、オレは。
さあ、姫。
オレが動いたら、キミはどうする?