第10章 *File.10*(R18)
「雪乃にとって、ゼロは特別?」
「こんなことをして、聞かなきゃいけないことなの?」
病室に戻るなり、病室の扉に雪乃を押し付けた。
「気にならないワケがないだろう?ずっと気にはなってたよ」
「…否定は、出来ない」
「……」
「貴方達は遠い世界の人達で、私は景光よりも先に、ゼロと出会ったから」
「……」
「でも、私は景光が好きなの。景光じゃなきゃ、私が嫌なの」
「……」
また、泣かせてしまった。
「…信じてくれないなら、もういい」
「今から、ゼロのトコに行くのか?」
「そんなこと、出来るワケがないでしょうっ!」
溢れた涙が頬を滑り落ちる。
そう、出来るわけがない。
誰よりも心優しいキミには。
オレを想う気持ちに嘘偽りがないのも、十分に分かってる。
それでも雪乃自身が認めるぐらい、雪乃の中でゼロの存在が大きいのも確かだ。
オレは、それだけでも嫉妬するよ。
キミが誰かを想う気持ちを全部、オレだけで埋めつくしてしまいたいから。
「雪乃の想いは、信用してる」
「ウソツキっ」
「もう、言わない」
プイと背けたままの顔を両手で挟み込むと、そのまま唇を重ねた。
「…っ、はぁ……っん…」
唇を重ねた瞬間は拒んでいたけど、どう足掻いてもオレに離してもらえないと、どうやら諦めてくれたらしい。
僅かに開いた唇から舌を差し出せば、戸惑ったように絡ませて来た。
このまま押し倒して、抱き尽くしたい。
二人の感情を刺激するのは、互いの乱れた息遣いと濡れた水音。
「……!」
どれぐらいの時間が経ったのか、ポケットに入れたままのスマホが音を立てて震えた。
雪乃の身体がピクリと反応し、唇が離れる。
「!」
まだ震えるスマホに気を取られた、次の瞬間だった。
「雪乃っ!」
この場から逃げるようにして、雪乃が病室を出て行ってしまったのは。
「クソッ!」
どうしてこんな時だけ、あんなに素早く動けるんだ!
不味いな。
オレはまだ退院出来ないし、今から追い掛けることは勿論出来ないし、これから一体どうしたものかと深いため息を付きながらも、スマホの通話ボタンを押すことにした。