第2章 近づく気持ち、離れる距離
夕陽が差し込む、静かな図書室。
場地君に勉強を教え始めてから、数週間が経った頃。
入って一番奥の方の席が私達の定位置になりつつあり、向かい合わせに座っていたのが、隣に並んで座るようになった。
「で、ここにこれを当てはめると……こうなる」
「おぉー。じゃぁ、これは……こう、か?」
「うん、そう。合ってるよ」
最初は苦戦していた場地君も、少しづつ理解出来るようになったのか、必死に言われた事を覚えようと頑張っている。
「やっぱの教え方上手いよな。めちゃくちゃ分かりやすいわ。先公の説明じゃ、何言ってんのか全然わっかんねぇからよぉ」
シャーペンの後ろで頭を軽く掻いて、不満そうに言う。
一緒にいる時間が増えてから、私はだいぶ場地君と緊張せず普通に話せるようになり、場地君は私を下の名前で呼ぶようになった。
場地君は呼べと言うけれど、私はまだ場地君を下の名前で呼べずにいる。
さすがに、もう少し時間が必要だ。
一段落したので、今日はこれで終わろうと片付け始めた私を、場地君の声が制す。
「ちょっとじっとして」
場地君の手が私の髪に伸びる。
「糸くず、付いてる」
髪から取ったゴミを見せて、ニッと笑う。
そんな些細な事にも、私の心臓はドキドキしっぱなしだ。彼は全然気づいてはないんだろうけど。
もう取り終わったのに、場地君の手はまた私の髪に触れている。
「髪、下ろさねぇの?」
「え……と、微妙に中途半端な長さ、だから……下ろすと邪魔になっちゃうし……」
「人の髪綺麗って言うけど、お前のも綺麗じゃん」
髪の先の方を触られているのに、痺れるみたいな感覚に陥るのは何故だろう。
どうしたらいいか分からなくて、ただ固まっていた私の前髪を、サラリと場地君の長い指が避けるみたいに流れる。
肌に少し触れただけで、体がビクリと跳ねた。
そのままゆっくり場地君が近づいて来る気配。
静かな図書室に響き渡るんじゃないかと思うくらい、心臓の音が激しく波打つ。
「場地さぁーん、いますー?」
扉が開かれ、声がして私は立ち上がり、場地君は勢いよく振り返る。
私は素早く片付けて、カバンを抱えるみたいにして持つ。
「あれ? 勉強、もう終わったんスか?」
「あ、あぁ……」