第1章 優等生の皮を被った野獣
私を見つめたままの場地君に、私は震える唇を開く。
「あ、の……場地君……えと、当てられてるよ?」
「んあ? あー……うん」
目が覚めたのか、私をジッと見ていた視線が外され、前を向いた場地君が立ち上がる。
そして、自信満々に答えを言う。しっかり最初に「聞いてなかったけど」と付けて。
もちろん、正解しているはずもなく、先生がため息を吐いた。
「場地、お前そんな事で次のテスト、大丈夫か?」
後頭部を掻きながら、力無く「はぁ」と言う場地君に、先生が再びため息を吐いたのは、言うまでもない。
そして、しばらくしてチャイムが鳴ると、場地君は思い切り伸びをして大きな欠伸をした。
今の時間の場地君は、ノーマルバージョンだから、何だか自然で格好いい。
それにしても、髪が物凄く綺麗。
「ん? 何?」
「へっ!? あ、えと、髪っ!」
見つめていたのか、こちらに気づいた場地君が問う。焦りながら、咄嗟に髪の事を聞いた。
「綺麗だね。何かしてるのかなぁって……」
「いや、特には。石鹸で洗って普通に乾かしてるだけ」
「石鹸っ!? 石鹸だけで、そんなに綺麗な髪になるの? す、凄いっ……。でも、それだけでここまでになるのは、多分場地君の元々の髪質なんだろうね。私は石鹸じゃ、こんなに綺麗にならないだろうし」
珍しくスラスラと言葉が出て、笑って話しているのに気づいて、ハッとする。
さっきから、私ばかり話している。
「あっ、ご、ごめんなさいっ! 突然話しかけたうえに、私ばかり話しちゃってっ……」
「なぁ、お前さ」
場地君が体ごとこちらに向き直って、机に頬杖を付く。
「そのすぐ謝るの、癖か?」
「あ……えと、そう、かも……。うん、多分……。ははは、ごめっ……あ……」
「ぶっ! ははははっ!」
言われたそばから謝ってしまい、手で口を塞ぐ私に、場地君は口を大きく開けて笑う。
何がそんなに面白いのか分からなくて、首を傾げる私に場地君は口角を上げてこちらを見た。
「なぁ、勉強教えてくんねぇ? 俺バカだからさ、全然頭に入ってこなくて困ってんだよな」
言って、場地君は犬歯を見せてニカッと笑った。
「私なんかで、よければ」
こうして私は、放課後や時間がある日に、場地君に勉強を教える事になった。