第2章 近づく気持ち、離れる距離
最近よく話すようになった、松野千冬君が問いかける言葉に場地君はぎこちなく答える。
「じゃ、じゃぁ、私帰るねっ! 二人共、また明日っ!」
「え? 送りますよっ!」
「だ、大丈夫っ! ありがとうっ!」
私は二人に早口にそう言って、小走りで図書室を出る。
背後で「もしかして、邪魔しました?」とうっすら聞こえた気がするけど、聞かなかった事にした。
校門を出ても、心臓の早鐘はなかなか治まってはくれなかった。
場地君は何をしようとしたんだろう。それとも、何もするつもりはなくて、ただ髪を触っただけだったのかもしれない。
そうだ、私がただ意識し過ぎていただけなのだろう。
意識するな。自分がいいように考えちゃ駄目だ。
場地君は一生懸命勉強に向き合っているのに、私がこんなんじゃ失礼だし。
明日からは、ちゃんとしなきゃ。
せっかく場地君と普通に話せるようになって、少しだけでも仲良くなれたんだから。
翌日から、私は出来るだけ余計な事を考えないように務めた。
そして、お昼。
お弁当を机に出した時、私のお弁当が目の前から消えた。
「、一緒に食おーぜ」
満面の笑みを浮かべた万次郎が、私のお弁当を持って私の手を取る。
「へっ!? ちょっ、万次郎っ……」
そのまま手を引かれて、教室から引っ張られるみたいに連れ出され、廊下を足早に歩く。
「ど、何処行くの?」
「屋上ー」
屋上は立ち入り禁止だとばかり思っていた。
いや、立ち入り禁止だ。
扉に張り紙があるけど、多分守られていないだけで、一部の人間の出入りはされているんだろう。
現に、扉の鍵が壊されているのが見えた。
こういうのを見ると、先生も大変だなと思ってしまう。
「ちなみに、壊したの俺等じゃないよ?」
私が鍵部分を見ていたのに気づいたのか、万次郎がそう言った。
扉を開いて外へ出ると、何人かが輪になって座っているのが見えた。
そこにはもちろん、龍宮寺君と場地君に松野君、そしてこの間初めて話をした、三ツ谷隆君がいた。
「よぉ、お前もマイキーに目ぇ付けられて、大変だな」
三ツ谷君が苦笑する。
「ごめんな、マイキーがお前も誘うって聞かなくてよ」
「う、ううん、大丈夫……」