第6章 私、食べ頃です
出るのが億劫だったけど、大事な用なら困ると思い、ゆっくり体を起こして玄関へ向かう。
一人だから、気をつけて玄関を開けるよう言われていたから、とりあえず開ける前に扉へ「どちら様ですか?」と声を掛けた。
「あー……俺、場地、だけど……嫌じゃなきゃ……開けてくんねぇか?」
心臓が早く波打って、体に力が入る。
ゆっくり扉を開いて、隙間から少しだけ顔を出す。
「よぉ……」
「……こ、こんにちは……」
変な感じになってしまった。
少しの無言の後、扉を先程より開いて場地君を見る。
「あ、上が、る?」
「おぅ……」
私が開いた扉に手を掛けて、場地君が玄関へ入って扉を閉めた。
鍵を掛けて、靴を脱いでリビングへ招き入れる。
ソファーに腰掛けた場地君を見届け、お茶の用意をしている私の背後に、気配を感じて振り向こうとしたら隣に場地君が立っていた。
「手伝う」
「ふふっ、大丈夫なのに」
不器用でぶっきらぼうで、なのにこういう所はやっぱり優しくて、改めて好きだと実感してしまう。
二人でお茶とお茶菓子を用意して、隣に腰掛ける。
「いただきます」
「はい、どーぞ」
ゆったりとした時間を、他愛のない話をして過ごす。
少しして、場地君の表情が真剣になり、こちらを見る。
「あの、さ……さっきは、悪かったな」
「ううんっ、私の方こそ、ごめんなさい」
「俺は、お前を大事にしてぇし、無責任な事はしたくねぇ。親父さんから言われたからとかじゃなく、俺がそう思ってる」
妙な部分真面目で、まっすぐで、男らしい。
「けど、お前が言うように、俺もお前と……先に進む事にも、興味ねぇわけじゃ、ねぇ……」
少し照れたみたいな顔をして、目をフラフラさせてる場地君が可愛くて。
「笑ってんなっ……俺も男だっつの……。それに、好きな女からの誘い断るほど、大人でもねぇ」
手が優しい手つきで頬を撫でる。
「考え直すなら、今しかねぇぞ。始まっちまったら、止まれる気がしねぇからな」
場地君の手を上から包み、微笑んだ。
「よろしくお願い、します」
緊張で体が固くなるものの、心地いいドキドキだ。
好奇心とは怖いもので、自分の知らなかった深い部分を、意図も簡単に剥き出しにするのだと知る。