第6章 私、食べ頃です
少し申し訳なさそうに言った場地君に、私は首を横に振って笑う。
「大丈夫だよ。それを、わざわざ言いに来てくれたの?」
「あー……まぁ……それだけじゃねぇっつーか、何つーか……」
言い辛そうにしている場地君の頬が、少し赤い。
「場地君?」
「帰る前に、顔、見たかったんだよ」
言って「ハズいわ……」と目を逸らす。
場地君が後頭部をガシガシ掻いている。その反対側の手を握って見上げる。
「私も、場地君の顔見れて、嬉しい」
呆気に取られたみたいな顔で止まる場地君が、ふわりと笑う。
そのまま頬を撫でられ、甘えるみたいにその手の平に頬を擦り付ける。
「あんま可愛い事すんな……」
「んっ……」
本棚に背を付け、迫る場地君の顔を見上げる体勢で、キスを受け入れる。
「はっ……ぅンんっ、ふっ……ぁ……」
「ん……はぁ……あー、離したくねぇ……」
唇が離れて、凭れ掛かるみたいに抱きしめられ、呟く場地君の背中に手を回す。
「ふふ、私も。だけど、千冬君、待たせちゃ悪いよ」
渋々と言ったような顔で、もう一度キスをして図書室を出て行った。
後を引くようなキスに、唇が痺れた。
顔が熱くて、唇を指でなぞる。
少しして熱が冷めた頃、スマホが震えた。
画面には“エマ”という文字が浮かぶ。
ヒナちゃんと三人で会う事になり、オシャレなカフェでお茶をしている。
「へぇー、じゃぁ、明日からご両親いないんだね」
「一人で、寂しくない?」
「半日以上一人っていうのは初めてだから、不安がないわけじゃないけど、大丈夫だよ」
何週間、何ヶ月もというわけでもないし。
「ふっふっふっ、ここは彼氏の出番ではないかな?」
エマちゃんがニヤニヤして、ヒナちゃんが不敵な笑みを浮かべる。
物凄い嫌な予感がしなくもない。何故ここで場地君の話になるんだろうか。
「彼氏とお泊まりっ! あわよくば……みたいなっ!? 」
「きゃぁーっ! 大胆っ!」
二人が盛り上がる中、私は固まる。
顔に熱が集まり、どうしたらいいか分からない。
そんな事、考えた事もなくて。パニックだ。
「ちゃん固まっちゃった」
「ウブだねぇー。かっわいー」
解散した帰り道。