第5章 共にいる意味を
父と共に家に入る時、父が場地君に顔だけを向けた。
「今度、ご飯でも食べに来なさい」
その言葉に、私はまた涙が出た。
深く頭を下げる場地君と別れの挨拶をして、閉まった扉の前で父の背中に声を掛けた。
「お父さん、ありがとう」
「娘が幸せになる邪魔をするつもりはないし、お前が選んだ男なら大丈夫だと信じただけだ」
そう言った父の顔が柔らかくて、優しい父がそこにいた。
そして「母さんにも礼を言っておきなさい」と言って、リビングに戻っていく。
母が私の味方をして、父を説得してくれたのだと思った。
こんな温かな場所にいれる自分が、凄く幸せなのだと改めて実感していた。
数日後。
「明後日から、急遽お父さんが二日間出張で家を空けるんだけど……」
父の話なのに、何故目の前の母が困った顔をするのだろう。
「丁度お母さんも、二泊でお友達と旅行に行く予定だったのよ……。が一人になっちゃうし、断るしかないわね……」
私のせいで、せっかく楽しみにしているものを、台無しにしたくなくて。
「私は大丈夫だから、心配しないで行って来て」
毎日仕事に家事にと忙しい母から、楽しみを奪いたくないから。
私も言う程もう子供じゃないし、心配するのも分からなくないけど、留守番くらい出来る。
こうして、私は初めて一人だけの夜を過ごす事になった。
そして翌日。私は放課後の図書室にいた。
奥の棚で脚立に登って本を物色中。
誰もほとんど寄り付かない奥の棚付近は、だいたい不良の溜まり場になっている事が多いけど、私が今いる場所には人はいない。
「こんなとこにいたのかよ……何か難しい本読むんだな」
「ひっ! び、びっくりした……」
脚立の片方、私が登っていない方の脚立に乗りながら、私の背後に立って、肩口から顔を覗かせる場地君。
突然後ろから包まれるみたいにされて、話しかけられてびっくりしてしまう。
心臓が早くなるのに、心地よくて。
「あんま脚立登ったまま、ずっと立ってんなよ、パンツ見えんぞ」
「ぱっ!?」
ニヤリとした場地君の顔を見た私の額に、場地君は軽くキスをして脚立を降りる。
差し出された場地君の手を借りて、私も脚立を降りた。
「今日一緒に帰れなくて悪ぃな」