第1章 優等生の皮を被った野獣
やっぱり私は人をイラつかせ、怒らせる事には長けているようだ。
「あー、ほら、女ってあれだろ。最初は好きな男にーとか、色々、あんだろ?」
場地君は思っていた通りの人だ。
「場地君、優しくて、いい人だね」
私が言った言葉に固まった後、真っ赤になる。
「ばっ……何言ってんだっ! 俺は別に優しくも、いい人でもねぇよっ……」
照れているのか、そっぽを向きながら必死になる場地君が、可愛く見えてしまって笑う。
「わ、笑ってんじゃねぇっ……」
犬歯を見せて、私の頭を混ぜるように撫でて笑う。
やっぱり場地君、いいなぁ。
「あー、場地が女の子とイチャついてるー」
「お前等授業だろ。んなとこでイチャついてていいのか?」
明るい声と低い声が聞こえ、佐野君と龍宮寺君が並んで立っているのが目に入った。
「い、イチャついてなんかねぇわっ!」
赤くなりながら、怒って行ってしまった場地君の背中を見つめて、私は気づかれないようにまた笑う。
「へぇー、ちゃんてそんな風に笑うんだな」
「へ?」
いつの間にか近くに来ていた佐野君が、私の顔を覗き込むようにして、顔を近づける。
物凄く、近い。
「おら、マイキー、やめろ。困ってんだろ」
「何だよ、ドラケン。いいじゃん、別にー」
不満そうに頬を膨らませる佐野君と龍宮寺君に挨拶をして、私は授業へ向かう。
いつも通り授業は差し障りなく終わり、着替え終えた私は乱れた髪を直す為にトイレへ。
「おっ!? ちゃんはっけぇーんっ! つーか、髪下ろしてんの、レアじゃね?」
元気な声で走り寄ってくる佐野君は、珍しく一人のようだ。
「あの、体育で、髪、乱れちゃった、から……」
ポーチを胸の前で抱きしめて、佐野君を見てぎこちなく笑う。
「うーん、体育の時の笑顔がいいなぁ、俺。なぁ、もっと仲良くなろっ! 遊ぼうぜっ!」
突然の申し出に、私の手が佐野君の手に握られ、ブンブン振り回される。
「わ、わかったからっ! 佐野君、あの、手をっ……」
「手ェ触られんの、嫌?」
そういう事じゃなく、視線が気になると言うか何と言うか。
人懐っこい笑顔で、私の返答に「周りなんて気にすんな」と軽く返す辺り、我が道をゆく佐野君らしさが羨ましい限りだ。