第5章 共にいる意味を
出来るだけ冷静に話すつもりが、父の「お前の為」だとか「不良と一緒にいて心配」だとかいう言葉に、私の怒りが一点を超えた。
「お父さんの意見を私に押し付けないでっ! 私の気持ちを無視して、私の為って勝手に決めつけてっ……挙句に不良だからって下らない理由だなんて……。場地君の事、何も知らないくせにっ!」
両親に楯突いて、声を荒らげるのが初めてで、両親は驚きに目を見開いている。
自分の意見をここまでハッキリ、強く言ったのも初めてだった。
不良だからと、場地君を馬鹿にされたみたいで、それだけはどうしても許せなかった。
涙が止まらなくて、言葉が嗚咽に変わっていく。
母が私に寄り添うように、肩を抱く。立ち上がっていた私は、そのままソファーに座り直す。
「……確かに、何も知ろうとせず彼の事を悪く言った事は、すまなかった……」
父が私に頭を下げるのを見るのが初めてだったので、今度は私が驚く番だった。
「父さんは、お前に幸せになって欲しい。それだけは、分かってくれ」
いつもの言葉数が少ない父の優しい言葉は、私にゆっくり染みていく。
父の気持ちが、分からないわけじゃないから、愛されているのが分かるから、素直に嬉しい。
「これは、口止めされていたんだが……」
場地君がずっと父の会社や家に通って、自分と付き合っている事で、私が父に悪く思われないようにと、父を説得していたらしい。
人の事ばかり考えて、自分の事は後回しで、自分の立場が悪くなる事なんてお構い無し。
やっぱり私は、彼以上に好きになれる人はいないだろうと、改めて思った。
翌日、早速私は千冬君に教えてもらった、場地君の家の前で立っていた。
インターホンを鳴らそうと伸ばした指が、緊張で震える。
何度も押そうとして、やめる。
「はぁ……」
自らのため息の大きさに、心が軋む。
静寂の中に、靴の音が聞こえる。
久しぶりに見る彼は、相変わらず格好よくて、泣きそうになる。
「何してんだ、こんなとこで」
何か言わなきゃいけないし、言いたかったはずなのに、頭が真っ白で、体中から好きが溢れてくる。
鋭い目の奥が、戸惑いに揺れて目が逸らされる。
「何の用があんのか知んねぇけど、俺と一緒になんていねぇで、さっさと帰れ」