第5章 共にいる意味を
静かで暗い部屋で、ベッドに背を預けて、何をするでもなくぼーっとしていた。
何もする気が起きないと言った方が、合っているかもしれない。
そんな日が二日続いたある日、母が私の部屋の扉を叩いた。
特に鍵を掛けるなどはしなかった、私の部屋の扉が開かれると、廊下の明かりが暗い部屋を薄く照らす。
何も言わず、私の隣に座る母が静かに口を開いた。
「場地君だっけ? 別れたんですって?」
痛い所を突き、私の心を“別れ”と言う言葉が抉る。
「凄く、好きだったのね……」
肩に手が回され、母の肩に頭を凭げる。
人の体の温かさと、母の優しい声に、泣き続けていて乾いていたはずの涙が、ボロボロ零れる。
「初めて……だったんだっ……こんなに、も、人をっ……好きだって、思った事っ……」
泣きながらたどたどしく話す言葉を、母は「うん」と静かに聞いてくれる。
そして、母が体を離して、体ごと私に向き直り、まっすぐ見つめた。
「お父さんの事、嫌わないであげて」
最初、何を言われたのかが分からなくて、言葉が出なかった。けど、分かってしまった。
父が、場地君に何かを言って、別れが来たのだと。
「心配するお父さんの気持ちも、分かってあげて欲しいの。少し行き過ぎな部分はもちろんあるかもしれない。でもね、お父さんはを愛してるからこそ、した事だと思うんだ」
母の言う事も、父が心配するのも分からなくない。
けど、それが私と場地君が別れる理由になるとは、どうしても思えなかった。
それを理由にしたくなかった。
今の私の中に生まれた感情は、明らかに怒りで、こんなに怒りに震えた事は初めてで。
私の知らない所で、心配だからという理由だけで私から場地君という存在を引き離した事。
話をする事すらせず、自分だけの勝手な判断で私との別れを決めてしまった場地君に。
そして何より、そうさせてしまった私に。
場地君は優しいから、私の事を想って身を引いたのくらいは想像がついた。
だからこそ、何も出来ず、何もしなかった私に一番腹が立った。
その日の夜、私は帰宅した父の座るソファーの前に座った。
「場地君に、何か言ったの?」
驚き、バツが悪そうにした父の顔を見てそうなのだと悟る。