第4章 願いも想いも半分こ
私達のものだけではない足音が聞こえる。
「か?」
「お、お父さん」
振り向くと、父が立っていて、その厳しい視線が繋がれた手から、場地君へと注がれる。
「こんな時間まで、何処へ行っていたんだ?」
頭を下げて軽く自己紹介をした場地君に、父は一度だけ首を縦に動かして頷くみたいな仕草をして、私を見る。
「ん? 、お前その顔どうした?」
父がそう言って眉間に皺を寄せて、場地君を見た。父の厳しい目に、私は察した。
父は、場地君がやったと思っているのだろう。
「場地君が助けてくれたんだよ」
私の言葉に父の厳しかった目が、少しだけ和らいだ気がした。
家に入る時の場地君の、少し寂しそうに見えて声を掛けそうになったのを、父に遮られてしまった。
その事があってから数日後の休日、私は場地君に呼び出される。
近くの公園のブランコに座って、難しい顔で俯く場地君がいた。
嫌な予感が、した。
「急で悪ぃけど、やっぱ俺恋愛とかそういうの、合わねぇんだ」
だから“別れて欲しい”と。場地君は、こちらを見ながら冷たく言う。
血の気が引いていく。
「女に時間掛けるのも無理だし、何より家族に気ぃ使ってとかマジで無理」
ブランコから立ち上がり、場地君が吐き捨てるみたいに言う。
彼から出る言葉とは到底思えなくて、言葉が出ない。
「それに、俺等みたいなんと一緒にいねぇ方が、お前の為にもなるだろうしよ」
「……場地、君っ……」
「今まで、色々ありがとな」
犬歯を見せて笑う場地君の顔が、滲んでよく見えなくて。
泣くなんて、しちゃいけないし、するべきじゃないのに。
彼の言葉に、どうしても納得いかなかった。
去った場地君の背中を見送るしか出来なくて、誰もいなくなった公園で、ペタリと座り込んだ。
今後、私の世界に場地君はいなくて、出会う前私はどう過ごしていただろうか。
そんなに長く一緒にいたわけじゃないけど、私にとって場地君の存在は物凄く大きいものだったんだと、改めて身につまされる。
心と体が切り刻まれるみたいで、自分の体を抱きしめる。
翌日、私は初めて仮病を使った。
眠れなくて、ご飯も食べる気になれなくて、部屋に引き篭ってしまっていた。