第3章 全部貴方だけに
言って、エマちゃんはヒナちゃんに何かを告げる。
ヒナちゃんが私に笑って見せて、花垣君と松野君に歩み寄り二人の腕に手を掛ける。同じようにエマちゃんも龍宮寺君と万次郎に腕を絡めた。
「さーっ! クライマックスは、観覧車だよーっ!」
そう叫んだエマちゃんが私にウインクをした。
三ツ谷君はさすがというか、エマちゃんが何をしようとしているのかを察していたようで、優しく笑った。
場地君と残された私は、エマちゃんがさすがに何をしてくれたのかは分かる。
緊張で、胃が痛くなりそうだ。
「ほら、行くぞ」
「へっ? あ、うんっ!」
場地君が前を歩き、それに着いて行くように歩き出す。
場地君の速度は早過ぎず、丁度良くて歩きやすい。
観覧車の列には、もう既にみんな並んでいて、カップルが多いように感じる。
私達も、そう見えているのだろうか。
そう、見えるといいなと、思ってしまう。
「えーっ! 俺と乗りてぇのにーっ!」
少し前で並んでいる万次郎が、不満そうに言っているのが見える。
「お前は……乗りたかった奴、いねぇの?」
こちらを見ずに聞く場地君の、服の袖の部分を軽く摘んで見上げる。
場地君の吊り目がちで猫みたいな目が、私にまっすぐ向けられた。
「場地君が……いい、です……」
口にした瞬間、顔から火が出そうなくらい恥ずかしくなってしまった。
手に、温かい感触。
場地君の手が、私の手を握っている。
どんどん場地君が、私の気持ちを侵食して行く。
順番が来て、二人で乗り込む。
向かい合わせではなく、隣に座った場地君は特に話をするわけでもない。
機械の動く音と、空調の音、アナウンスの小さな音、そして、物凄い音で叩く心臓の音。
「こんな風に、街を見る事なんて普段はねぇから、新鮮だよな……」
「うん、凄く……綺麗……」
上から見る景色は、夕陽も沈んで夜の街を照らす灯りがたくさんあって、まるで宝石のようにキラキラしていた。
「夜景なんて見るの初めて」
「そうなのか? じゃ、今度オススメの場所連れてってやるよ」
「え? いいの?」
場地君は、いつもの無邪気な笑顔でニカッと笑って頷く。
そして、その顔は真面目な表情に変わる。