第3章 全部貴方だけに
松野君に名前で呼ぶ事を許可して、私もされたけど、人の名前を口にするのは、万次郎でやっと少し慣れたにも関わらず、やっぱりなかなかに難しい。
次会う時には、呼べるようにしたい。
こうしてどんどん仲良くなる人が増えるのは、普通に喜ばしい事だ。
でも、場地君の名前だけは、まだ呼べないでいるのだけど。
こうして、日曜日に出掛ける事になった。
日曜日の朝。
妙にソワソワしてしまって、やたらと早く起きてしまった。
とりあえず軽く食べられるような物を作って、少しお洒落なんかもしてみようかと考えて、自分にそんなスキルがあるわけではないから、出来る範囲でになるけど。
しないよりはいいと思い、珍しく髪を弄ったり、数少ない可愛いよそ行きの服を出してみたり。
初めてだから、ワクワクして浮かれている自分がいる。
時間より少し早いけど、荷物を持って家を出た。
肌寒い静かな道をゆっくり歩くと、自分の靴音がコツコツと響き、その音すら浮かれているように聞こえる。
待ち合わせ場所に着くと、まだ誰も来ていなかったから、とりあえず待ってみる。
「いい天気だなぁ」
空を仰ぐと見事な晴天で、お出掛け日和だ。
柔らかい風が、穿いているロングスカートを揺らした。
「よぉ、早いな」
「おーっ! 今日むっちゃ、可愛いじゃんっ!」
声を掛けられてそちらを見ると、万次郎と龍宮寺君と、知らない女の子がいた。
凄く、可愛い。聞くと、エマちゃんといって、万次郎の妹らしい。
三人と合流した後、三ツ谷君が妹達を連れて現れ、花垣武道君と彼女の橘日向ちゃんと共に、松野君と場地君が合流した。
「さん、今日いつもと雰囲気違ってて、そっちもいいっスねっ! ね? 場地さん」
「……あ? あ、あぁ……」
「あ、りがと……」
場地君が赤くなるから、私までつられてしまう。
場地君の私服を初めて見るから、格好良くてドキドキして直視出来ずにいる。
こんなに大勢で出掛ける事もないし、初めての人もいて緊張するけど、楽しみなのは言うまでもない。
遊園地なんて何年振りだろう。
「何から乗る?」
「やっぱジェットコースターからっしょっ!」
みんな楽しそうで、私も緊張なんてあっという間になくなった。