第3章 全部貴方だけに
それより、まさかの発言に変な声が出てしまった。
でも、場地君に言われた言葉は素直に嬉しい。
「可愛くは、ないけど……あ、ありがとう。場地君も格好いいよ?」
「はっ!? ば、バカな事言ってんじゃねぇっ!」
静かな図書室に場地君の声が響いて、少し迷惑そうな顔をされてしまった。
「勉強、すっか……」
「ふふっ、うん」
バツが悪そうに頭を掻きながら、教科書に視線を向けた。
「つか、そんな激甘なのに、何でアンタ等付き合ってないんスか……」
「ちっ、千冬っ!?」
「っ!? ま、松野君っ、いつの間に……」
全く気配を感じなかった松野君が、机を挟んで目の前に立っていた。
心臓がバクバクしている。
「気づかないくらい、お互いに夢中なんスね。何か幸せっスよね」
ニコニコしながら前の席に座り、頬杖をついている。
松野君も加わり、場地君の勉強会が進む。
不良だから勉強が出来ないとか、学校に来ないとか、そういう偏見はないから、松野君が勉強が出来るとしても、特に気にはならない。
なのに、松野君はそこが気になる様で。
「本人のやる気次第だし、ほら、いくら見た目が真面目そうでも勉強苦手な人はいるし。それと同じじゃないかな。だから、見た目がどうとかは、あまり関係ないと私は思うかな」
松野君の目が爛々としている。
「周りは見た目がこんなで、バカにしたり見下したりする奴ばっかだったし、何か、そういう人がいてくれんの、正直嬉しいっス」
松野君は立ち上がって、私に深々と頭を下げる。金色の髪がサラリと揺れた。
「場地さんの事、よろしくお願いしますっ!」
また周りの視線がこちらに集中してしまったけど、松野君は気にする事なく、顔を上げて笑顔を浮かべた。
場地君は不満そうに「お前は俺のおかんかよ」と言った。
私がよろしくする事に関しては、何も思わないのだろうかと、細かい事を考えたけどすぐにやめた。
その後も、暗くなるまで三人での勉強会は続いた。
学校から出た後、松野君が「あっ!」と何かを思いついたように、声を上げてポケットを漁る。
「さん、今度の日曜日暇っスか? 俺のダチも呼んでみんなで遊園地行きません?」
誰か呼んでいいと言われても、生憎私にはそんな友人はいない。