第3章 全部貴方だけに
無傷な場地君を見てホッとしたと同時に、彼がどれ程強いのかを知った気がした。
髪を掻き上げながら歩いて来る場地君に、私は足早に走り寄る。
「……無事か?」
「うん、脱がされただけだしっ……。あの、迷惑掛けてごめんねっ! 助けに来てくれて、嬉しかった。ありがとう、場地君。私は、大丈夫っ、だからっ……場地君っ、怪我、は?」
また震え始めた体に気づかれないよう、泣かないよう、スカートを握りしめる手の方の腕を押さえるみたいに掴み、無理にでも笑顔を浮かべる努力をする。
なのに、場地君が優しいから、優しく抱きしめるから、それが無理になってしまった。
「無理して笑うんじゃねぇよ。あんな事があった後で、大丈夫なわけねぇだろ……」
後頭部に手を当てて引き寄せ、場地君の胸に顔を埋めるみたいに抱きしめられると、涙が溢れて止まらなくて、私は場地君の制服を少し摘んで泣いた。
場地君は何も言わずに、ただ私が泣き止むのを待ってくれていた。
落ち着く頃には、外はもう暗くなっていて、松野君はとっくにいなくなっていて、中の人達の事は先生に事情を話して、とりあえず私達は帰るよう言われた。
暗い道を、場地君に手を引かれて歩く。
場地君の手は温かくて、離れ難くなる。
私は場地君の手を離す事なく、立ち止まる。
「ん? どうした?」
「……場地君の言う通りだなって。私こんな感じで目立たないし、男の子の目に留まるタイプでもないから大丈夫だって思ってたんだけど、そういうの関係なく、女ってだけで今日みたいな事が、あるんだなって……。危機感ないって場地君に言われた矢先にこれで。場地君や松野君にも迷惑かけちゃったし……」
情けなくて、笑ってしまう。
「ほんとダメだなぁ……」
自虐気味に笑う私を、場地君は何も言わずに見た後に、少しだけ距離を詰めた。
「まぁ、あんなん毎回あるわけじゃねぇけど、気をつける事意識出来るようになったんなら、いいんじゃねぇの? 後、屋上の時のあれはなんつーか……八つ当たりみたいなもんで、俺も悪かったつーか……」
「八つ当たり?」
言いにくそうに言葉を探しながら話す、場地君の次の言葉を待つ様に見つめる。
「だ、だからっ、マイキーに膝枕とか、その、体とか……気軽に触らせてんのが、む、ムカついたんだよっ!」