第3章 全部貴方だけに
初めては場地君がよかったなぁなんて、ありえない事を考えながら、私は無駄だと悟って抵抗をやめた。
絶望とはこういうのをいうのか。人は感情を殺せるのかなぁなんて、妙に他人事みたいに考えていた私の耳に、大きな音が届いた。
────パリーンッ!
窓が割れ、誰かが入って来るのが視界の端に見える。
「さんっ、大丈夫っスかっ!?」
「松野……君……?」
松野君を見た後、私は目から溢れる涙を止められなくなった。
「千冬、を安全なとこ連れてけ。コイツらは一人残らず……全員、俺が殺る……」
場地君がいる。
こちらを見る事はないけれど、場地君が来てくれた事に、たまらなく嬉しさが募っていく。
松野君に手を借りて立ち上がり、私は部屋から出て、閉められた扉を振り返る。
「ここは場地さんに任せて、とりあえず保健室へ……」
「松野君、ありがとう。でも、まだ脱がされた以外は何もされてないし、大丈夫だから……」
「はぁー……そうっスかっ! 何もされてなくてよかったー。でも、あんま無理しちゃ駄目っスよ。体、震えてるじゃないっスか」
松野君の言う通り、体は先程からずっと震えて止まらない。
「はっ!? そういえば俺、怖い思いしたのに、何も考えないでさんの体触っちまってるっ! す、すんませんっ!」
両手をバタバタさせて慌てる松野君に、私は笑って見せる。
「松野君、いい人だね。迷惑掛けてごめんね、本当に大丈夫だから、気にしないで。助けてくれて、ありがとう」
「いや、俺は何もしてないんで。気づいたのも場地さんだし」
いつ私に気づいたんだろうか。さっき私が見た時は、そんな風には見えなかったのに。
「あんなに焦った顔の場地さん見たの、初めてですよ」
「そっか……やっぱり場地君は、いい人だなぁ。私なんかの為に、こうやって体張ってくれて、気に掛けてくれるんだから」
人の為に自分の事を犠牲に出来る、本当に素敵な人だ。
こんなの、好きにならない人はいない。
松野君が場地君を慕って着いて行くのがよく分かる。
だから余計に、私なんかの為に傷ついたり、怪我をして欲しくない。
「松野く……」
「あ、場地さんっ!」
松野君の名前を呼ぼうとした時、ゆっくり扉が開いた。