第2章 近づく気持ち、離れる距離
不機嫌そうな、眉間に皺を寄せる場地君の鋭い目が私を見る。
「その気もねぇのに簡単に男に触らせて、マイキーだから膝枕したり、触られても大丈夫だとか思ってんのか? めでたい奴だな」
「万次郎は友達、だしっ、その、膝枕っ、は……ちょっと不意を突かれた、けど……」
場地君を見上げて、珍しく言い返す私は、次の瞬間背をつける形で壁に追いやられた。
────ドンッ!!
顔の横に手を付かれて、体がビクリと跳ねた。
凄く近い場所に場地君の顔があって、怖いのにドキドキして。
「ハッキリしねぇのも腹立つけど、危機感がねぇのがもっとイラつく……」
ぶっきらぼうでも優しい場地君に、こんな事を言わせてしまうくらい、私は彼の癇に障る存在なんだと思うと、鼻の奥がツンとしてくる。
「ば、じ……君っ……」
「それとも、お前、マイキーの事好きなのか?」
「っ……」
違うのに、違うと言いたいのに、言葉に詰まってしまう。
「……っ、そりゃぁ、邪魔して悪かったな……」
お弁当箱を私に押し付けて、場地君は背を向けた。
誤解だと、違うと言いたい。言わなきゃいけないのに。流れる涙と、込み上げてくる嗚咽に言葉が出ずに、ただ泣くしか出来ない。
しゃがみ込んで、止めどなく流れる涙を止める事すらせず、泣いた。
そして、やっぱり私は場地君の事が好きなのだと、ハッキリ自覚したのだった。
翌日から、場地君が私に話し掛ける事はなくなり、私も勇気が出せずにいた。
だから、勉強を教える事すらなく、私はどうしたらいいのか分からなくて。
でも、私が傍にいても場地君には何のメリットもないし、ただイラつかせてしまうくらいなら、離れる方がいいんだと思い始めている。
相変わらず万次郎は、暇があれば構ってくれるけど、私はやっぱりぎこちない対応しか出来なくて。
ある日の放課後。
「毎回悪いな。いつも通り終わったら鍵閉めて、いつものとこに置いて適当に帰ってくれて構わないから」
「はい、わかりました」
たまたま残っていた私は、先生に道具整理を頼まれ、準備室にいた。
こうしてたまに手伝っているから勝手が分かる為、道具整理と一緒にファイルや、資料整理もする。
「この間片付けたばかりなのに、もう散らかってる……」