第2章 シキミ
三篠様の腕に掴まると一瞬で景色が変わったと思ったら夏目がいた。
夏目は私に気が付いていないのか不安そうな声で三篠様に助けを乞うていた。
三篠様がこの場に私を連れた理由はよくわからないが、何かしらの力になるべきなのだろう。彼は確かに三篠様に名前を返さない不埒な奴だが、べつに嫌いなわけじゃない。初めてできた人間の友達かもしれないのだから。
「それでその腕が問題なのでしょう?」
夏目から紹介してもらった手乗りサイズの招き猫みたいな猫だるま。三篠様がよくお話されていたっけ。斑改め、にゃんこ先生と言うらしい。口が悪い奴は嫌いだ。
夏目の異変はすぐに分かった。その腕に巻かれている学校では見ていない包帯を見れば一目瞭然なのだが、禍々しい呪いが夏目の腕を取り込もうとしているような妖力の流れを感じる。
「あぁ。これなんだけど」
夏目は包帯をゆっくり外すとその下にはやはり、螺旋を描いたような模様が広がっていた。
「おや、呪いの印。これはまずい」
呪いというのは人間同士がかけられるものもあるが効力が全然違う。ここまで目に見えて跡を残せるのはよっぽどの力と念があってこそだろう。そして、三篠様と私は呪いという分野に関しては専門外だ。
夏目の力になれると思ったのに。残念。
「だが、私は呪いに詳しくはございません。」
三篠様も同じ意見だったようで夏目に告げる。夏目は落ち込んだように悲しげな表情を浮かべる。
「代わりの者をよこしましょう。」
流石です。三篠様。自分が専門外だからと言ってみて見ぬ振りをするのではなく次の一手までを考え人の子のお力になる。あぁ本当に慈悲深く素敵なお方だ。
「しかし夏目殿。」
が三篠様への想いを馳せている間に三篠は厳しく夏目に続けた。
「妖物に弱い心を見せてはなりませぬよ。」
「え?」
「妖は人の心の弱さや影を写す。寂しさを妖で埋め合わせておいでで」
三篠は見透かすような眼で夏目を見つめる。その目は夏目を見通しながら私にも思い当たる節がある。いやむしろ私に仰っているのかもしれない。
夏目も考えることがあったのか、表情を曇らせる。