第1章 ミステリアスな先輩
今は、遊びでも何でもよかった。
傍にいて、愛して、満たしてくれるなら。
ビッチと噂されても、誰に何と言われても構わない。一人で、誰にも気にされずにいる辛さに比べたら、知らない人達に陰口を言われるくらい何て事はない。
そんなもの、痛くも痒くもない。
一人にずっと愛してもらえるなんて、そんなおこがましい事は思ってもないし、そんな贅沢は言わない。
名前も知らない先輩について行く、私の手首が掴まれる。
「お前、何やってる……」
無表情で、今日は少し呆れたみたいな顔をしている今牛先輩がいた。
今牛先輩の姿に、声を掛けてきた先輩が颯爽と走り去ってしまう。
「……はぁ……。お前、昨日の男はどうした?」
「昨日……あー……フラれちゃいました」
笑う私を、相変わらず眠そうな無表情な顔で見る。
「で? 今のは?」
「うーん、声を掛けられたので……」
「新しい彼氏でもないのか?」
「はい」
ただ聞かれた事を答えただけなのに、ため息を吐かれる。
呆れただろうか。
「おい、ワカ、何してる?」
「今行く。あんま変な奴にチョロチョロ着いていくな」
注意され、頭をポンポンとされる。表情は相変わらず無表情だ。
自信はないので、返事はしない。
呼ばれて去った先輩を見ながら、いい人だななんて考える。
そして、私はまた心を埋めてくれる人を探して夜の街へ向かう。
これは、ずっと止められない事。
別にセックスがしたいわけじゃないし、昔みたいに生活に困ってるわけでもない。
私は、もう一人では眠れないから。
「一人で何してんの? 暇なら、遊ばない?」
今日もまた、知らない男に着いて行く。
優しい笑顔で、自然に指が絡む。
人の肌に触れると、心にある不安がスッと消える気がした。
それがどれだけ、不毛で虚しくても。私にはソレが必要なのだ。
「そいつ、俺のだから返して」
声がした方に視線を向けると、手を繋いでいた男が舌打ちをした。
「……ったく、どこまでもお前は危なっかしいな」
繋がれていた手が離され、いなくなった男の代わりに、目の前で呆れたような顔をしている今牛先輩がいる。
まただ。
この人は、世話好きなのだろうか。