第1章 ミステリアスな先輩
人気のない空き教室で、下着に手を掛けた彼氏にされるがままになる私に影が差す。
何が起こったのか、全く分からなかった。
上に乗っていた彼氏が、気づいたら教室の端に吹き飛んでいた。
「邪魔したか?」
紫と金色の私には珍しい髪色。この髪型はドレッドというのだろうか。
全てを見透かしたような、心の奥まで覗かれるみたいな目に、時間が止まったみたいで。
私は首を振った。
気絶している彼氏を見て、どうしたものかと考えていると、その人が私に上着を被せてくれる。
「あ、あの……」
「好きに使え。返さなくてもいい」
目線を合わせるようにしゃがんでいたその人は、眠そうな無表情のまま言って立ち上がった。
「そいつが起きる前に、移動した方がいいんじゃねぇのか?」
「あ……でも、一応彼氏、なので……」
私の言葉に眠そうな目が少しだけ、驚いたように開かれる。
「でもソレ、そいつがやったんだろ?」
ソレとは、多分私の頬の赤みの事だろう。殴られた時の。
「あはは、まぁ、いつもの事なので」
笑う私の前で、またしゃがんだその人が私の頬に触れた。
「喧嘩して自分から無茶する女を一人知ってるが、お前はそいつより危なっかしいな」
馬鹿にするでも、笑うでもなく、ただそう言った彼の手が凄く優しくて、心臓がゆっくり波打った。
「別れねぇのか? 別れられねぇなら、手ぇ貸すか?」
「どうでしょうか……。別れ方、分からないです。自分から言った事、ないから……」
また驚いた顔。可愛いと思ってしまう。
この人の、この無表情を崩したい衝動に駆られる。
「今牛若狭だ。三年」
突然の自己紹介に、私も急いでそれに返す。
頭に手が乗せられた。
「何かあれば、遠慮なくいつでも来い。いいな?」
言った無表情の彼が、少し笑った気がしたのは、見間違いだったのだろうか。
その翌日、私は彼氏に別れを告げられて、また一人になる。途端に寂しさと不安でいっぱいになる。
私には、やっぱり傍にいてくれる誰かが必要で。
この不安がなくなって、寂しさが埋まるなら誰でもいいから傍にいて欲しい。
少しでもいいから、愛して欲しい。
そんな願いが届いたのか、私は声を掛けてきた明らかに遊んでそうな先輩に着いて行く。