第3章 優しく愛でて、甘く溶かして
そんな私の姿を楽しむみたいにニヤッと笑う男の、私の髪を掴んでいた手が、突然捻り上げられる。
「人の女に何してんだ?」
冷静でゆったりした声がして、私は安堵する。
捻られた手首を押さえて、突き飛ばされた男は尻もちをついた。
「ってぇなっ……何すんだよっ!?」
「、大丈夫?」
「……っ、はぃ……」
座る私の目線に合わせるようにしゃがんで、手を握る。
どうしよう、格好よすぎる。ああ、もう、本当に好きだ。
私の頭を一撫でして立ち上がり、喚く男を一瞥するその目は冷たい。
「はっ、な、何だよっ……。つーか、お前の新しい男? こんな誰にでも簡単に股開くような男好きのクソビッチ、やめといた方がいいんじゃねぇの?」
この意見には私も賛成だったりするから、何も言えない。
今牛先輩には、もっと相応しいちゃんとした子が合っていると思う。
私がもっと、綺麗で普通だったら、どれだけよかったか。そしたら、こんな迷惑もかけずに済んだだろうに。
「まぁ、体の具合はいいから、なかなか手放せねぇのはわかっ……」
男が話をしている途中で、今牛先輩が消えた。
私が瞬きをしている間に、男の前にいた今牛先輩が背後に回っていて、男の髪を鷲掴みにしている。
いつの間に。全然、見えなかった。
「余計な事ばっかペラペラと、よく動く口だな。口は災いの元って言葉知らねぇのか? くだらねぇ事言ってる暇あんなら、勉強しろ」
そのまま地面に男の顔が叩きつけられるような動きをし、私は見ていられなくて目を逸らした。
男を見る間もなく、私は今牛先輩に手を握られて移動した。
どのくらい歩いたか分からないけど、今牛先輩は何も言わない。怒っているとかではないだろうけど、私はおずおずと口を開く。
「あ、あの……ご、ごめんなさっ……」
「だから、謝るな。お前のせいじゃ……」
「私のせいですっ!」
声音を上げた私を、少し驚いたような顔で見る。
今牛先輩は、いつも私のせいじゃないと言うけど、全て私が今までして来た事が災いしているから、私のせいなのだ。
「今牛先輩は優しいからそう言ってくれるけど、どう考えたって、やっぱり私が今までして来た事は、いくら過去だとしてもいい事じゃないし、消えないから……」