第3章 優しく愛でて、甘く溶かして
ペラペラと捲る紙の音。
チラりと片目を薄く開けて、様子を窺う。
珍しく眼鏡を掛けて、真剣に本を見つめる表情に心臓が波打つ。
アンニュイというか、眼鏡も似合ってて、何処か色気もあって、凄く格好よくて困ってしまう。
ドキドキしているのが、バレてしまうんじゃないかと思うくらい、心臓の音が激しくなる。
目を固く瞑って、手に持つ今牛先輩の服を握る手にも力が入る。
「起きてんの?」
「……起き、ました……」
「お前は突然いなくなる癖も、直した方がいいな」
頭をポンとされ、パタンと本が閉じられて、無表情に見下ろされた。
「メッセージ……ちゃんと送りました」
一緒にいた女の子を思い出して、少し反抗的な気持ちになる。
「何だ、拗ねたのか?」
「っ、ち、違います……」
「そう拗ねるな。放って置いたのは、悪かった」
頭を撫でられて、優しく笑った顔に機嫌がよくなるなんて、我ながらチョロいと思う。
何でも私の気持ちを見透かしてしまう今牛先輩は、本当に人をよく見てる。
「目、悪いんですか?」
「そこまでは。たまに掛ける程度だ」
「似合ってますね」
「褒めても何も出ねぇぞ」
最近頭を撫でられる度に、まるで子供扱いされているみたいで、嫌いじゃないけど、複雑な気持ちになる。
だから、いまだに何もされないのか、ただただ今牛先輩が硬派なのか。よく分からない。
そして、休みに何処に行くのか、決まらないままその日が来てしまった。
少し前に買ってもらった、可愛い服に身を包むと、ワクワクが膨らんで顔がニヤける。
「準備出来たなら、行くぞ」
いつもより丁寧に、髪を纏めて整える。自分なりに、今牛先輩の隣に立っても大丈夫なように。
今牛先輩が私を見つめている。ジッと見られると、恥ずかしくて、垂らしている髪を少し取って、顔を隠すみたいに頬に寄せる。
「へぇ……いいな。髪も巻いたのか。服も似合ってるし、可愛いよ」
自然にそんな事を言われ、予想外の事に顔から火が出そうだ。
「照れてんの?」
「うぅ……今牛先輩っ、いじわるです……」
はははと笑うのは珍しいけど、心を開いてもらえている事に嬉しくなる。
「そういやぁ、名前、いつまで苗字呼びなんだ?」
「え? 今牛先輩は今牛先輩なので」