第2章 偽物の関係でも
青宗君に言われた事を元に、本屋さんに来ている。
「何か欲しいのか?」
「いえ、ちょっと参考資料を」
私の言葉に、今牛先輩は不思議そうな顔で首を傾げた。
私は、デートスポットなんかが書いてある雑誌に手を伸ばす。
「お前自身が行きたい場所ないのか?」
「男の人と出掛ける事なんてなかったから、思いつかなくて」
「彼氏いたのにか?」
苦笑するしかない私は、微妙な反応しか返せなくて。
「その……今までの人は、体しか繋がりはなかったので……」
言ってて虚しくなり、笑うしかなくなる。そんな私の様子に、今牛先輩は私の持っている雑誌を奪い取る。
「これは必要ない」
「あのっ……」
そのまま指が絡められ、本屋を出た。
「何か食って帰るか?」
「えっと、お任せします」
今牛先輩は普段から、もっと甘えてわがままを言えと言うけど、慣れていないし、特に要望はないから困る。
「ん? ちょっと待ってろ」
手が離れて温もりがなくなり、少し寂しく感じた私は、繋いでいた手を胸の前で握る。
歩いて行く今牛先輩の背中を見つめていると、知らない女の子の前で止まる。
目が大きくて、まつ毛も長くて、小柄で不思議な雰囲気を持つ、凄く可愛い女の子だ。
何より、胸が大きい。
自分も小さいわけではないけど、あそこまで大きくはない。
仲が良さそうに、いや、どちらかと言えば彼女が、今牛先輩に懐いている印象だ。
邪魔するのも悪いし、何よりあまりこういう場面を見ていたくなくて、今牛先輩に連絡だけ入れておいて、その場から逃げるように家路に着いた。
広い部屋の電気を点けて、静かな部屋に自分だけの足音。
急に寂しさが込み上げる。
たまたま目に入った、今牛先輩の部屋着を手に取った。
優しい手と同じくらい、好きな今牛先輩の匂い。
服を抱きしめて、ソファーに体を沈めた。
服の香りを嗅ぎながらなんて、まるで変態だなと笑う。
今牛先輩の香りに包まれて目を閉じると、自然とウトウトしてくるくらいには、安心感がある。
いつの間にか眠ってしまった私の髪を、何かが撫でる。この優しい手は、今牛先輩だろう。
ずっと撫でていて欲しくて、目を開けずに堪能する。
髪を撫でては、本を捲ってまた撫でる。