第2章 偽物の関係でも
私が言うと、その彼は驚いた顔をして、次に苦笑する。
「殴られるのに慣れる生活ってどんなだよ」
何と言っていいのか分からず、私も苦笑して誤魔化す。
「お前名前は? 俺は二年の乾青宗」
「私も二年。。よろしくね、乾君」
「青宗でいい。よろしくな、」
青宗君は、そう言って口角を少しだけ上げて笑う。
少し、今牛先輩に似てると思った。
「あれ、ちょっと待て。って……もしかして、ワカ君知ってる?」
ドキっとした。やっぱり、みんな私達の事を知ってるんだ。そして何より、彼は今牛先輩の事を“ワカ君”と呼んだ。
彼は、今牛先輩と仲がいいのだろう。
彼に連れられて、水道の前に立たされ、青宗君の濡らしたハンカチが頬に当てられた。
わざわざそこまでしなくてもいいのに、と思いながらも大人しくしておく。
「……と、青宗か」
「ワカ君」
いつも通りの無表情で、こちらに歩いてくる今牛先輩を見て、少し嬉しそうな顔をする青宗君。
「頬、赤いな……何があった?」
「特に何も。ちょっと、当たっただけです」
心配を掛けないよう、迷惑を掛けないように笑って見せる。
青宗君の何か言いたそうな目でこちらを見るけど、気づかない振りをする。
頬に今牛先輩の手の感触を感じて、目を閉じる。
今牛先輩に触られるのが、優しく労るような手が好きだ。
「迷惑かけたな、青宗」
「いや、俺は何も」
「ありがとう、青宗君」
言うと、青宗君はまた口角を上げて笑った。
やっぱり二人の雰囲気とか空気は、凄く似ている。
今牛先輩は何も言わずにこちらを見ている。表情だけでは、何を考えているのかは分からない。
青宗君がいなくなり、今牛先輩と二人になる。
「それより、こんな場所で何してたんだ?」
困った。どう答えればいいのだろうか。絡まれてました、なんて言えないし、どうしよう。
考えあぐねていると、今牛先輩の眉間に少し皺が寄る。
「言えねぇ?」
「あ、いえ、その、特に何かしてたってわけじゃ、ないので……」
微妙な答えになってしまって、今牛先輩の眉間の皺が余計に深くなる。
怒らせてしまっただろうか。