第2章 偽物の関係でも
多分これは、今牛先輩絡みだと推測する。
トイレの個室から出ようとした私の耳に、数人の女子の声が届く。
「聞いた? さんの話」
「あー、今牛先輩でしょ? びっくりなんだけど。やっぱ男ってあーいうのがいいのかな」
「私ちょっと狙ってたのに、ショックー。あの人はそういうのじゃないと思ってたのに、あんなクソビッチの何がいいんだろ。ムカつく」
「どうせヤりたいだけじゃね? 所詮ビッチはそれしか価値ないって」
好き勝手に言われているけど、あながち間違いじゃないから強く否定は出来ない。
ただ黙って彼女達の話を聞きながら、彼女達がいなくなるのを待った。
この様子だと、割と学校内で噂になっているんだろうなと、少しげんなりした。
仕方ないと言えば仕方ないのだけど。
午前中の授業を受けて、昼休みになっていつもの空き教室へ向かう。
「ねぇ、って、あんた?」
「ちょっと来なよ」
上級生であろう女子が、私を囲む。
私は漫画みたいな状況に、大人しく着いて行く。
体育館裏に着くと、一人に突き飛ばされて壁で背中を打つ。
痛みに顔を歪めると、突き飛ばした人が私の胸倉を掴む。
「どういうつもり? あんたみたいなクソビッチが今牛君にちょっかいかけてさぁ」
「付き合ってるとか、あんた正気? ホラ吹いてんじゃねぇよ」
「そーそー、ちょっと構って貰えたからって、勘違いすんなよ」
周りにいた女子が同調する中、胸倉を掴んだままの女子が顔を近づける。
「今牛君がお前みたいなクソビッチ、本気で相手するわけねぇだろ」
そう言って、その女子が手を振り上げた。叩かれた頬が熱くなる。
でも、男に殴られ慣れているからか、このくらいの痛みはどうって事なくて。
突き飛ばされ、次はバランスを崩してその場に座り込む。
「あんま今牛君の周りチョロチョロしてると、次はこんなんじゃ済まさはいから」
女子達が去って行き、私は立ち上がる。
「女子って怖いな」
声がしてキョロキョロしていると、草が揺れて男子生徒が一人現れる。
顔に火傷の痕がある綺麗な顔をした男子で、制服を着ていなかったら女子かと間違えてしまっただろう。
「叩かれてたけど、顔、大丈夫か?」
「殴られるのは、慣れてるから」