第2章 偽物の関係でも
冷たく見下ろす目に、ゾワゾワと肌が粟立った。
マスクをズラされ、しっかりと目が合う。
「お前怒られてんの、分かってるか?」
もちろん分かるから頷く。
「何でこの状況で、ちょっと嬉しそうな顔してんだお前は」
私は心の何処かで、今牛先輩が探しに来てくれるのを期待していたのだろうか。
「何、で……」
今牛先輩は、また口を笑みの形にして微笑む。
「ウロチョロと勝手な事ばっかするよな、お前。首輪と鎖でも付けるか?」
それもいいかも、なんて思ってしまった。
「満更でもない顔してんなよ……」
ため息を吐く今牛先輩が、私の額をつついた。
鼻の奥がツンとする。
「帰るぞ」
「で、でもっ……」
私の言葉が聞こえないとでも言うように、私の手を握って歩き出す。
途中でホテルの荷物を取って、そのまま寮ではなく今牛先輩のマンションへ連れて行かれる。
「何も言わずいなくなるな。心配するだろ」
こんなにも優しく、大切にされたら、もう抗えない。観念するしかないようだ。
私は、今牛先輩が好きだ。
でも、この感情は迷惑になる邪魔なもの。絶対に気づかれちゃいけない。
傍にいてこの人の優しさに触れて、依存せずにいられるとは到底思えない。
不安だ。
翌日、久しぶりに学校に行くと、クラスメイトの様子がおかしくて、今まで話した事ない女子が数名近寄って来る。
「さんて、今牛先輩と付き合ってるって、本当?」
何故彼女達がそれを知っているんだろう。
今牛先輩はそういうのをペラペラ言いふらすような人じゃないし、どちらかと言えば、騒がれるのが好きじゃないタイプだと思う。
私が「あ、うん」と言うと、彼女達は何かを含むような、微妙な顔をした。
「そうなんだぁー。ねぇねぇ、どうやって知り合ったの?」
「今牛先輩って謎多いし、クールビューティな感じだし」
「そうそうっ! ちょっと近寄り難い感じがまたいいんだよねぇー」
盛り上がる女子達を見ながら、やっぱり今牛先輩は有名で人気なんだと改めて知った。
助けてもらった事があるとだけ説明した所で、ありがたい事に先生が来たからその話は終わった。
休み時間、私はトイレへ向かいながら、変に視線を感じて居心地の悪さを感じていた。