第2章 はじまり
そこから話し合いの末、週一で様子を見に行くこと、物件はオールマイトが選ぶこと…などを条件に、エマに押し切られる形で同意してしまったのだ。
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私は、家建 築男(36)。
不動産屋を営むこと、約10年。
非凡な不動産王の父から生まれた、平凡な男である。
「マンションの角部屋…2階以上は絶対で」
「女性専用だと…いやしかし、その方が寧ろ危険と聞くこともある。同フロアだけ女性とか…」
「オートロックは絶対で、出来ればプロヒーローも御用達の…家賃はいくらでも。」
鬼気迫っていた。
これほどの圧を感じたことは未だかつてない。
まるで世界をその背に背負っているような…と言っても、来店した男性は人体模型のように痩せていて、時折咳き込んでいるので、世界を背負うとは真逆に見えたが。
聞けば、愛娘が進学と同時に一人暮らしを始めるので、その物件探しに来たらしい。
今までも、娘息子可愛さに暴走状態で訪れる親御さんは沢山いたが、なんというか、気迫がエグい。
ほんとに言葉通り100万でもポンと出して来そう…それも現ナマで。
「ええと、雄英高校付近でセキュリティの強いところ…こちらとかどうでしょう」
こういうの、まずはそこそこなところ紹介して、内見で口八丁誤魔化して1番いいところですよ〜ってするんだけど、そんなことしたらもう商売できなくなる。そんな気がする。
というわけで、秘蔵のとっておき4件の資料を即、渡した。
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ところ変わって、No.1ヒーロー自宅。
「エマ、面接どうだった?」
「うん、好感触。」
出前の寿司を食べながら、2人で物件の資料を見る。
「不動産屋、代わりにありがとう」
「それはね、エマに何かあったら…」
「そんな心配しなくても大丈夫だよ。」
そういうところが心配なのだ、と言っても理解してくれないだろうなとオールマイトは苦笑する。
「にしても、エマが特別推薦を使うとはね」
「パパには言わなかったけど、私はずっとそのつもりだったよ。だからリカバリーガールを、あなたに紹介してもらったの。」
「ムム、そんな時期から…!抜け目ないね」
「だって、”お父さん”の子だもの。」
口角が緩く笑みを浮かべた。