第2章 はじまり
癒守エマは、オールマイトの養子である。
紆余曲折あったが、エマの父の遺志を、旧友との約束を守るために、オールマイトは諸々の反対を押し切り、彼女と家族になった。
だが、No.1ヒーローであるオールマイトは家を開けることも多く、やっとの休みも人の目があるところに一緒に行くわけにもいかず、所謂「家族らしい」ことが全然出来なかった。
その上、エマはひとの顔色をよく伺う癖があった。
オールマイトが引き取ったのは小学校に上がる少し前だが、その時からわがままを滅多に言わなかった。
そのため、オールマイトはエマがたまに繰り出してくる『秘技・おねがい♡』に弱かった。
弱かったのだ…。
ーーー
「エマ、一人暮らしの件だけど…」
「その話なら週一で様子見に来るって約束で決着した。」
「ウン…」
刮目して欲しい。
これがエマの『おねがい♡』に敗北した者の末路だ。
ことの経緯は数ヶ月前に遡り、エマが学校の進路希望を受け取ったことがはじまり。
正直、物欲のあまりないエマが、お小遣いを某忍者ヒーローのグッズに費やすようになってから、嫌な予感はしていたのだ。
「パパ、私の進学先、雄英高校に決めたの。だから一人暮らしがしたい」
そう唐突に言われ、差し出された紙には『第一希望 雄英高校ヒーロー科』の文字。
「アァ…ウン…」と言葉にならない音だけが漏れる。
オールマイトの心中は穏やかではなかった。
エマの希望は出来るだけ叶えてやりたい。
入試の難易度を鑑みてもエマなら問題なくクリアするだろう。
だがヒーローというのは危険な職業で、それも雄英高校となれば共学…!
しかも一人暮らし‼︎
勿論、雄英高校に進学すれば、教師に着任する自分とエマの関係は秘匿しなければならないから当然だが…
素性の分からない男友達が増えるだけでも心配なのに…!
いや決して私が会えなくなるのが寂しいとかそんなではない。決して。
いやしかし…とブツブツ長考に入るオールマイトの袖をツン、と引っ張り、エマはトドメに入った。
「ね、パパ…おねがい?」
オールマイトは陥落した。