第2章 はじまり
豆腐とわかめの味噌汁、鮭の塩焼き、だし巻き卵に大根おろしを添えるーー。
「お米は…あと十分ちょっとか」
バタンと音がして、同居人の帰宅を告げる。
鮭の塩焼きをのせた黒皿の端に、うっすらと焼き目のついた卵焼きを置きながら、雪のような白髪の少女はリビングのドアを一瞥した。
金色のドアノブがガチャと回り、金髪の細身の男が入ってきた。
「おかえりなさい、パパ」
「ただいま、エマ」
「今日も、大変だったみたいだね」
「エッ、あぁ…ウン」
巨体をびくりとさせて驚くのを見、エマは悪戯っぽく目を細め、「咎められるようなことを?」と尋ねた。
「いやまさか…!」
「何かあっても、私には無かったって言うか」
オロオロしながら言い訳を始めるのを横目に、作業用BGM代わりに流していた映画を停止して、ニュースに変える。
この映画はたしか…SFモノだったか。
主人公のヒロインがラスボスのクローンで、命令に逆らえないヒロインが、結局ラスボスを庇う形で主人公に殺されるやつ。
年齢制限アリ、最近あまり見ないようなグロテスクな作品だったな、と金髪の男ことオールマイトは思い出していた。
「なにか、良いことでもあった?」
食卓に運ぼうと、2人分の茶碗と味噌汁を受け取りながら、エマの硝子玉のような目がじっ、とこちらを見た。
ーーー
良いこと、それは良いことがあったなと、オールマイトは噛み締めるように少し思い出す。
今日会った、緑谷出久という少年。
ずっと探していた、自分の意思を継いでくれる英雄を。
オールマイトは自身の個性『ワン・フォー・オール』を彼に譲渡する約束をしたのだ。
「そうだね…、素敵なファンの少年と会ったよ。」
ん、とエマに目線だけで続きの言葉を促される。
「無個性だが、誰よりもヒーローだった」
「そう。」
興味があるのかないのか、そのまま続きを促さずに、エマは鮭の身をほぐして白米の上にのせた。
『ーーヴィランに捕まった中学生は、No.1ヒーロー、オールマイトが到着するまで単身抵抗を続け…』
「ーーあれは、」
テレビ画面を一瞥したエマは白米に届きかけていた箸を置いた。
「エマ、どうかしたかい?」
「…いいえ、なんでもない。」