第5章 いいぞガンバレ飯田くん!
その、酷く不安を煽る音が鳴ったすぐ、食堂は混沌と化した。
「この音なんなの⁈」
耳郎のその問いに応えるように、放送がかかった。
『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難して下さい』
「セキュリティ3ってなんのことだよ‼︎」
「君たち1年生か⁈校舎内に誰か侵入したってことだ、3年でこんなの初めてだよ。君らも避難したまえ‼︎」
その3年生の台詞と同時に、弾かれたように周りの1年生も非常口に殺到した。
と、少なくともそう見えただろう。
彼、1年C組普通科の心操人使も、他の生徒同様、非常口を目指していた。
が、ふと視界の隅、もう生徒はとっくに逃げたはずのテーブルに人が見えた気がした。
「はーー」
逃げ遅れたのか、と一瞬思ったが多分違う。
雪みたいな白銀の髪に睫毛まで白い。少し上げた顔ーー悲しくなるくらい深い青の目と、合った。
「アンタ、何して」
「?…ご飯」
「警報聞いてなかったのか⁈早く避難しないと…‼︎」
なんでそんなことを言うのか、と言わんばかりに疑問符を浮かべた表情でこちらを見つめる女子。そんな表情をしたいのはこっちだ!
「ああもう、なんで…、アンタ名前は⁈」
「私は癒守エマーー」
エマの記憶は、そこで一度途切れている。
トンッ、と肩を叩かれた衝撃でエマは自分がどこにいるのか自覚した。
避難していた生徒たちの喧騒、その中である。
「あら…」
「アンタ、大丈夫なのか⁈」
「成程、君が…」
「勝手に悪い。いや俺が謝るのも…てかアンタ、なんで逃げなかったんだ⁈」
心操は散々だった。
何故か逃げずに食事を続けていた、この目の前の…なんと名乗ったか、癒守エマに自身の個性を使い、非常口まで揉みくちゃにされながら守っていた。
本当に、ヒーローに憧れてから、ロクなことがない…
「侵入したのはマスコミだからだよ。」
「え…」
「だから逃げる必要はないし、仮に手引きしたのがヴィランで雄英を襲撃しようとしてたとして、真っ先に狙われるのはこの人混み。」
心操は、頭を抱えたくなった。
そして自分を真っ直ぐ見つめる蒼い目がどこか気まずくなって、思わず逸らした。